婚約

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ

婚約

順風満帆。 私の人生って、ホントこれ。 そう思いつつ目の前にいる、冴えない友人達に目をやる。 「婚約おめでとう。朱美(あけみ)も年貢の納め時だね」 シャンパンのグラスを掲げる紗季(さき)は、このグループでリーダー格を自負してる。 でも未だに独身。お先に失礼しま〜す。 「そうだね。美波(みなみ)みたいにいい奥さんにならないと」 「朱美が主婦になるの? ちょっと想像つかないな」 就職して、二年かそこらで結婚して、既に子供が二人いる美波。 すっかりオバサンになってる。まだ二十八なのにさ。 「とりあえずは、三十までに子供ができたらいいな。仕事はとりあえず続けるけど」 「旦那さんとは、何処で知り合ったんだっけ?」 (はるか)は外資系企業でバリバリ働いてるからか、結婚に興味が無い。 適当に男の子を飼ってる、とあっけらかんと言っていた。 そんな子だから、この中では一番話しやすい。 「彼氏が朱美のファンだったんだよね?」 「一応ね〜。最初にそう言われた」 私はローカルテレビでアナウンサーをしてるから、一応は芸能人なのだ。 朝のニュース番組で司会をしていた私を、彼が見初めたってワケ。 「地方局だよね? 東京の」 紗季の言葉にちょっとイラッとする。自分だって大した勤めじゃないくせに。 「そう。東京なのに地方。全国ネットじゃないから」 子供の頃からそこそこの顔はしていたけど、さすがにフジや日テレの局アナになれる程じゃなかった。 今の顔だって、大学の頃にバイトして貯めたお金で、韓国でお直しをしたお陰だし。 その程度の冷静さはあるのよ。 「でも凄いね。さすがは芸能人」 「やだ〜。そこまでじゃないよ」 「指輪見せて。ヴァンクリなんだよね? 綺麗〜」 「誕生石なんだ、これ」 紗季の悔しそうな顔が、小気味いい。 美波は中学の頃からのパシリちゃんだから、序列は私より下。 遥は元から結婚願望がないから、張り合ってこないし。 「お医者さんって凄いね。やっぱりお金あるんだ」 「あまり遊ばないタイプの人だから。貯金はそこそこかな」 婚約者の直樹は、K大付属病院勤務の医師だ。 元総理が入院した事もある、誰もが知る大病院。 そんな男を捕まえられて、本当によかった。 「それじゃ、式も大変そうだね」 「う〜ん。どうしようかな。向こうは両親がいないしさ。大袈裟にやらなくてもいいかなって」 あんな一日で終わるものに、お金かけてもね……。 それに親とは絶縁状態だから、あまり大っぴらにしたくもない。 私は過去を、地元ごと()てたのだ。 だからなるべく、関わりは避けたい。 同じ中学だった美波だけは、高校でも親しくなってしまったから仕方ないけど……。 「姑がいないの? 羨ましいな〜」 「やっぱ義両親ってウザイの?」 「いや。孫は可愛がってくれるから、贅沢言えないけどさ……」 美波はこうやって、無害だからいいのだ。 ……あの女もそうだったら、あそこまでしなかったのに。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!