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直樹
家から出られない。
会社はクビにはなってないけど、時間の問題だろう。
パパ達からの連絡もないし、こちらからしても切られてしまう。
その上、奥さん達から不倫の慰謝料も請求されてしまった。
「……何で……私が……こんな目に……」
「『死ね』『ぶりっ子女』『消えろ』か。掲示板やSNSで、君にそう言ってる人が沢山いたね。言われた気持ちはどう?」
気が付くと、目の前に直樹がいた。
合鍵を渡していたけど、半年間の付き合いの中で、彼が勝手に部屋に入ってきた事なんかなかったのに。
「……直樹?」
「君の正体に皆が気づいてくれたね。茉那も少しは無念が晴れたかな」
茉那? 何で? 直樹と茉那にどんな関係が? 私の心を見透かしたのか、彼は薄く笑った。
「……君が自殺に追いやった八代茉那は僕の従妹だよ。両親を早くに亡くした僕に良くしてくれたのは、八代夫妻だった。僕も茉那を可愛がってたし、あの子は妹同然だった。そんな茉那は地元の半グレに強姦され、自殺した。自分の身体を餌に、ソイツを唆した性悪女がいたんだよ。……一体誰だっけ?」
「……ウソ……」
「嘘? 何が? 少しはまともになってたら、復讐なんか止めようと思ってたのに。お前は性根が腐りきってやがった。僕がこうして罰を下さないと、きっとまた誰かを苦しめる。殺さないでいてやるから有難く思えよ? 茉那を辱めた半グレは、医療ミスに見せかけて殺したけどさ」
首筋に触れる手の冷たさに、ゾクゾクと震えが昇ってくる。
私は……騙されていたの?
目からボロボロと涙が零れた。
直樹はどこか恍惚とした顔で、こちらを見つめている。
「あの子もそうやって絶望したんだろうな。茉那を苛めるヤツは兄ちゃんがやっつけてやるって、子供の時に約束したんだ。いじめっ子はもう二度とお外に出れないぞ。安心していいよ。茉那」
そんな訳ないのに。
直樹の隣にいる半透明の茉那が、薄らと微笑んだ気がした。
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