八代 茉那

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八代 茉那

『ごめん。俺は八代(やしろ)が好きなんだ。君とは付き合えない』 高遠(たかとお)くんはそう言って、目を伏せる。 彼はサッカー部のキャプテンで、成績もよかった。 中学生でそれなりに純情だった私は、彼のひたむきさに惹かれていた。 だから、自分から告白したのだ。 なのに、彼は私を選ばなかった。 そして……高遠くんが好きだと言った女は、あの頃の私がこの世で一番嫌いな人間だった。 茉那は、斜向かいの家の一人娘だった。 子供の頃から成績が良く、人当たりもいい、絵に描いたような優等生。 地味で目立たなかったけど、華奢で色が白く、眼鏡の下の顔立ちはとても綺麗で、気品すらあった。 我が家と違い優しい両親の愛情を一身に受け、うちの中学からは何年も合格者を出していない、難関高校への推薦も受けていた。 媚びを売らなくても、男の子達は皆、茉那の清楚な雰囲気を好んでいた。 誰もあの子を、性欲に(まみ)れた下衆(ゲス)な目で見なかった。 その上……アンタは高遠くんまで奪っていくの? ……血がドス黒く焼け焦げてしまう程、茉那の全てが妬ましかった。憎かった。許せなかった。 だから私は壊してやったのだ。アイツの何もかもを。
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