交通事故

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交通事故

順風満帆だったのに……。 どうしてこんな事になるの? デートした二日後。 明け方近くに、直樹から電話があった。 朝のニュース番組に出ている私は、既に局のメイク室にいたけど。 『朱美ちゃん……ごめん』 「何? どうしたの?」 慌ててメイクさんに頭を下げトイレに行き、彼から話を聞く。 『……当直明けで居眠り運転して、人身事故起こしちゃって……。向こうは軽い怪我なんだけど、何年かS県の無医村に行くように、って教授に言われた。少し我慢すれば東京に戻れるけど……』 鈍器で頭を殴られたみたいな衝撃。 何やってんの? 東京の大病院で医者をやってるアンタだからこそ、価値があるのに。 「……まさか、私について来いなんて言う気?」 『……結婚するんだよね? 僕は君をちゃんと養うよ?』 「イヤよ! 東京を離れたくない! S県なんて絶対イヤ!」 冗談言わないでよ! どうしてアンタのせいで私まで巻き添えを喰うの? ふざけないで!! 「直樹が悪いのに、どうして私まで……」 『……そうか。そうだろうね……。君にとっての他人の価値は、自分の役に立つか、気に入るかどうかだもんね。……ずっと知ってたよ』 ブツリと通話が切られた。 何よ何よ何よ。私が悪いっていうの? 憤然(ふんぜん)として部屋に戻ると、メイクさんが不安そうに私を見ている。 「少し聞こえちゃった。彼氏さん事故したの? 命に別状が無いなら本当によかったわね」 四十路(よそじ)の彼女はそう言って、鷹揚(おうよう)に笑う。 ……これが普通の人の反応なのかも。 言われて初めて分かったが、私は直樹の怪我なんて、一ミリも心配してなかったな……。
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