第一章 マンションの管理人

3/13
前へ
/68ページ
次へ
「とりあえず、マンションで詳しい話を出来たらと思うんだけど、どうかな? 私、岩瀬と言います」 「はあ、僕は岸本です」 「よし、岸本君。行こうか」  岩瀬は先ほどの腰痛は何処へやら、スタスタと歩き出した。 「えっ、ちょっと待って下さい」  慌てて追いかけると、点滅し始めた信号を軽やかに走って渡って行ってしまった。 「牛乳も置いてっちゃうし」  ティッシュボックスとトイレットペーパーと牛乳を持って、岩瀬が入って行ったグレーのマンションへ向かうと、管理人室の窓口の前で待っていた。 「急に走るからびっくりしましたよ」  牛乳の入った袋を渡す。 「すまん、すまん。有望な若者が釣れてーーじゃなくて、出会えて嬉しかったんだ」  そう言って、管理人室のドアを開けた。 「どんな事をするのか体験して行ってよ。決めるのはそれからでも遅くないから」 「研修みたいな感じですか?」 「そう、そんな感じ。スタッフがそろそろ心配して来る頃だから」  男性か女性かだけでも先に知りたい。 「どんな方なんですか?」 「説明するより会った方が早いと思うんだ」  勧められたパイプ椅子に腰を下ろすと、ギイと管理人室の床下収納みたいなハッチが開いた。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加