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「俺は元々は身体が弱い人間でな、ガキの頃からしょっちゅう病におかされていたんだ。それでも何とか十歳の歳まで生きながらえたが、飢饉の年に人減らしににあってーー山に捨てられた」
身の上話をする酒呑童子の横顔に、一瞬だけ線の細い青年の面影が見えた。
「親を恨んだ事は無いが、自分が他の兄弟と同じ様に生まれなかった理不尽さには腹が立った。そんな時に同じ様に人減らしにあった人間と出会った」
大昔の日本には、同じ境遇の人間は数えられないくらいいたのだろう。
「一緒に家畜を襲ったり、畑を荒らしたりして、一日の食いぶちを確保していた」
簡単にそれを咎める事は出来ない時代に生きていたのだ。
「ある日、そいつが死んだ。必死に生きて来たが、どこまでも地獄の様な日々から解放されたあいつが羨ましかった。それならばいっその事ーー雪の中で今にも潰れそうな廃寺で飢えを必死に耐えていた俺は、ついぞ人でいる事を捨てた」
それは遠い日の罪の告白だった。
「鬼になった俺は負け知らずで、戦いに敗れた鬼が俺の事をまるで酒呑童子の様だと言ったんだ」
それから、彼は酒呑童子を名乗る様になる。
「でも、もうやめだ。どんなに強くてもここでは何の役に立たない。これからは、ただの鬼として生きて行く」
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