第五章 鬼の宿と酒呑童子

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「お疲れさん。二日やってみてどうだった?」  管理人室に戻ると、岩瀬がお茶を淹れて待っていた。 「濃い二日間でした」 「段々と時間の感覚もついて来ると思うよ」 「だと良いんですけど」  濃いお茶を飲むと、やっと肩の力が抜けた。 「明日は休みだから、また月曜日から来て欲しい所だけど、会社の事が片付いてからかな?」  金を持って逃げている社長がもし、化けつづらを開けたら何が出てくるのだろう。 「そうですね。でも、気持ちはもう固まっています」  こんなにやり甲斐のある仕事は探したって何処にも見つからないだろう。 「それを聞いて安心したよ。実は、ずっと君の事は観察していて知っていたんだ」 「……え?」 「レジでミスがあっても怒らないし、子供がぶつかっても笑って許していたし、大らかな人間だなと目をつけていたんだ」 「まさか、スーパーの前で腰が痛いふりをして僕が来るの待っていたんですか?」 「ーー腰を痛めているのは本当だよ」  澄まし顔でお茶をすすった。 「お礼を言うべきなんでしょうね」  自分の知らない内に自分の行く先を試されていたのだ。 「いやいや、まあ。困っていたら人でも妖怪でも鬼でも何とかしてくれる人間だったら良いなと、勝手に期待しただけさ」  そう言ってニカッと笑った。その笑い方は少し井戸の神に似ていた。
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