第五章 鬼の宿と酒呑童子

17/18
前へ
/68ページ
次へ
 月曜日、晴々とした気持ちで退職届を提出した。上司は引き止めてくれたが、次の職を決めていると言うと本音かどうかは分からないが喜んでくれた。会社も残った人間で何とか立て直して見せると言っていたが、社長の消息はまだはっきりとしていない。退職届を出してから一ヶ月間は引き継ぎや残っている仕事で慌ただしく過ぎて行った。 「よし」  全ての業務を終え、挨拶もそこそこに会社を出た。初めてダンジョンへ行った日と同じ金曜日の夕方に、履歴書と手土産の薄皮饅頭を持ってマンションへ向かう。  度々、岩瀬には電話で近況を伝えていたが、いつもマンションとダンジョンの対応で忙しくしてた。 「あれ、巡回中か」  岩瀬には今日、顔を出すと伝えてあり、事務所に入れる様にしておくと伝えられていた。 「失礼します……」  ドアを開けると、作業机にでんと化けつづらが置いてあった。 「不用心だなあ」  他の人がもし開けたらどうなるのか考えなかったのだろうか。
/68ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加