自称パチプロ、乙女ゲームに転生する

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自称パチプロ、乙女ゲームに転生する

 町を見下ろす小高い丘に立つ巨木は、その町が出来た頃から涼しげな木陰を作ってきたと言う。  その木陰にうつむき加減の少女が一人佇んでいると男が近づいてきた、漆黒のマントのフードを上げるといかにも精悍そうな赤毛の若者が現れ、その瞳には何かを決意した情熱が燃えている。 「アリア!俺と結婚してくれ」  あまりにも真っ直ぐな求婚の台詞に、少女は頬を赤く染めたが返事は無かった。 「答えは舞踏会(パーティ)で聞こう」  赤毛の青年が答えも待たずに踵を返した直後、銀髪の青年が現れ同じ台詞を口にした。 「アリア!俺と結婚してくれ」 「答えは舞踏会(パーティ)で聞こう」  その後も次々と眉目秀麗な若者が入れ代わり立ち代わり求婚の言葉を口にしては去っていった、そして深い溜め息の後、少女が歩き出そうとした時金髪碧眼の男が現れた。 「確変来た!」  その一部始終を凝視していた男は小さくガッツポーズを取り、足を組み直し余裕の構えで缶コーヒーに口をつける。 「よーしよしよし」  ニヤリと頬が緩んだ男の眼の前にある小さな画面では、先程の金髪碧眼の男が少女を抱き寄せ言い放った。 「君との婚約を破棄する!」  途端に画面の周りのLEDが激しく点滅し、男の両隣に座る女性が画面を覗き込んできたので軽い会釈で牽制し、パチンコ玉で一杯になった箱を慣れた手つきで空の箱と交換し満足そうに頷いた。  此処は田舎の国道沿いにあるパチンコ店シューティングスター、新台入れ替えの情報を聞きつけ開店同時に新台をゲットしたこの男の名は自称パチプロの杉裏拓真 「シン・エバーライオンとかアニメ物は最初の設定が甘々だから楽だぜ」  拓真が座る新台とは、大人気家庭用乙女ゲーム「聖なる乙女と薔薇の騎士」のムービーが大量に堪能出来る宣伝文句の新機種だ、メーカーが新たな客層獲得の為、流行りのゲームやアニメとコラボしそのファン層を取り込もうとする中「確実に儲かる匂い」を嗅ぎつけ、元々のゲームのファン層である女性に混じり、男一匹黙々とハンドルを握り続けていた。
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