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ファビオが全く動かなくなった、トーラス伯爵が肩を叩いたりしても目を開けたまま石像にでもなった様にピクリとも動かない。
「ファビオ?」
王太子が座るテーブルは他の見習い達も気にはなっていたらしく、他の者も何事かと様子を伺っている。
「慌てるなベルミリオ、トーラス卿の話が難しすぎて思考する事を諦めただけだ」
落ち着き払ったアレックスが真面目な顔でファビオの症状を解説したが何故そんな事が分かるのか、それは自分も経験した事があると言うことだろう。
「暫くすれば治る」
「流石はアレックス様ですわ」
ベルミリオは心の中で
『いやいや、ドヤ顔で言うことでは無いだろう』
『こんなに駄目王子だったっけ?ああ駄目王子だから婚約者追放ルートがあったのか…そう言えばこれからの訓練の予定は何があったっけ?』
と少しばかり現実逃避しかけていた。
「私は暫く席を外していましょう、さあさあ他の者達も自分のテーブルに置かれた課題についてキチンと考察するように」
学術顧問のトーラス卿は動かないファビオの背をポンポンと叩き、少しばかり悲しそうに席を離れるとシルビアが「ベルミリオ様?」と、こちらは少し嬉しそうに訊ねてきた。
「治療士を呼べばいいのですわ」
「シルビア嬢、そんな事で教会に使いを出さないで下さいそれに、治療士が来るまでには意識を取り戻すでしょうから」
蝶よ花よと育てられた公爵令嬢の天真爛漫なわがままっぷりを『これが一歩間違うと悪役令嬢と呼ばれるようになるのだな』と、苦笑した。
殆どの貴族は5歳になると女神の洗礼を受ける、稀に恩恵を授かる者が居てベルミリオの記憶では公爵令嬢シルビアが女神から授かった恩恵は土属性の魔法だった筈だ、上手く使えば緑を育て実りをもたらすが下手をすれば土地を枯らせ大地を殺す、ゲームの追放ルートでは第2ステージの中ボスとして現れる。
シルビアはベルミリオに諭されてもニコニコと笑顔を絶やさなかった、それどころかイタズラが成功した子どものようにくっくっと笑いを堪らえていた。
「シルビア嬢、何か可笑しな事でも?」
「ベルミリオ、実はな…シルビアが在野の治療士を雇い入れたそうだ」
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