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神殿
「ついて来るなと言っているでしょう!!」
アリスは早歩きで前に進む。
「アリスこそ諦めたら?」
「何をよ!」
アリスは立ち止まり振り返る。そして孔士の顔を見つめた。
「僕が諦めると言う事を」
孔士は笑いながらも断固とした決意でそう言った。
「はぁ」
観念したかのように深いため息をした。
「命の保証はしないわよ」
顔に手をやり下を向く。
「わかった」
優しく微笑む。
「じゃっじゃぁ、さっさと行きましょう」
アリスは顔を赤くして孔士から目をそらした。
「ところでどこに行こうとしているの?」
「遺跡よ」
アリスは進んでいる方向に指を指した。かなり年季が入った石造りの建物が見える。そこら中に苔が生えて昼間だというのに陽の光
が木に遮られ辺りは薄暗くなっている。そして中からは魔物らしき生き物の鳴き声が聞こえてきた。
「……本当にあれに行くの?」
「ええ……そうよ」
アリスも緊張しているのか声が硬くなっていた。
「あそこには、私が欲しいものがある」
「はぁ」
「それじゃぁ、行きましょう」
アリスは遺跡に向かって歩き出した。
「ちょっ待って!」
「まさか今さら止めよう何て思ってないでしょうね」
「うっ」
「さっきまでの威勢はどこに行ったのかしら。私みたいな可愛い女の子を見捨てて逃げよう何て腰抜けもいいとこだわ」
「この女」
「あら怒った?悔しかったらさっさと進みましょう」
物の言い方もそうだが、自分の事を可愛いとぬけぬけと言い放つ所が癇に障る孔士。
「……可愛くない」
「何か言ったかしら?」
ついさっきまでついて来るなと怒っていたのに今は安い挑発をしてまで行かせようとする。まったくもってアリスの事が理解できないでいた。
孔士達は遺跡に入る。中は薄暗く動物の死骸などが散乱していた。よく見ると人間の白骨もあり不気味さに拍車をかける。
「うわっ!」
上から落ちてくる水の滴に驚く孔士。
「驚き過ぎよ。もしかして怖いの?」
「そっそんな事はある訳ないじゃん」
動揺を隠せないでいる。
「いいのよ。怖い事は恥ずかものではないわ。ただ男のくせに情けないとは思うけど」
「う…うるさい。早く先に進もう」
ごまかす様に早足で歩く孔士。
「変な奴ね」
アリスはそんな孔士が可笑しくて思わず笑ってしまう。
「なに笑ってるの?」
「なんでもないわ」
アリスの楽しそうな顔が忌々しい。
カチ
孔士の足元から聞きなれない音がした。
ガシャ―ン
石壁から無数の矢が放たれる。
「え?」
孔士は反射的に矢を躱した。だが躱したその姿はまぬけそのものであった。何とか身体への直撃は免れたが、矢が衣服にささりそのまま壁にはりつけにされていた。
「罠があるなんて聞いてないけど」
「あら、言ってなかったかしら?」
「罠があるって知ってたの?」
「少し話を聞いていただけよ」
「知っていたってことだろう。僕を罠よけとでも思っているの」
顔を横に振った。
「そんな事はないわ。あなたには大切な仕事があるから気をつけてね」
「仕事?」
「ええ、囮という大事な仕事」
「一緒じゃん!!」
犠牲になるという点では罠よけと囮は同じであった。
「ほら、さっさと進みましょう」
「このアマ」
孔士は生まれて初めて女の子を殴りたいと思った。
暗い遺跡を恐る恐る進む。途中様々な所で罠が作動したり魔物が襲いかかってきたりと、なかなか思うように先に進むことができない。孔士とアリスは、罠をかいくぐり魔物と戦いながらもお互いに助け合うことでどうにか生き延びていた。
「腹へった~」
けっこうな距離を歩きしかも罠よけとして利用されていた孔士は心身共に疲れ果てていた。
「まだ半分といったところね」
「半分!!」
アリスの言葉にガッカリする。
「今日はここで休みましょう。この先はまだ危険になるはずだからしっかり休息をとっておかないと危ないわ」
「冗談でしょ」
アリスは冷たい目で孔士を睨みつける。
「私は冗談が嫌いなの」
孔士は顔に手をやり深いため息をした。
「食事を作るから薪を探してきなさい」
「ええ~」
まだ、こき使うのかと心底いやそうにする孔士。
「あら、だったらご飯はいらないの?」
「……薪、探してくる」
天の一声でしぶしぶ動き出した。
早くも尻に敷かれる孔士であった。
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