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休息 壱
アリスは手際よく薪に火をくべると食事を作り始める。持ってきていた少ない食材から二人前のスープと硬いフランスパンという献立である。
「ここでは大した物はできないけど…」
「いただきます!!」
孔士は、先程とは打って変わり味わう様にゆっくりと食事をする。こうした限られた食事しかできない時はがっつくよりゆっくりと味わう方が腹が膨れる。それは今まで経験で培った知恵であった。
「うまい!」
「本当に?」
「こんな事に嘘ついてどうするの?」
「自分の料理を食べてもらうのはあなたが初めてだから」
恥ずかしそうするアリス。
「そうなの?美味しいのにもったいない」
「……誰も私に見向きもしないし、作ったご飯も食べてくれない」
暗い顔で、下を向く。
「私のような落ちこぼれは家の恥と言われながら生きてきた。でもどうにかしようと剣の訓練や勉強を頑張ってきたけど、どうやら私には特別な才能はないらしくて全て徒労に終わったわ。料理もそんな中で、学んだ事の一つよ。結局は誰も私が作った料理を食べようとはしてくれなかったけど…」
自嘲気味に笑った。
「無駄ではないと思うけど。第一、餓死しそうだった僕の命を救ったじゃないか。それにアリスが作る料理は温かくて美味しいよ。だから自分を卑下しないで」
アリスは驚き、目を瞬かせた。
「僕が保証する。アリスは決して落ちこぼれなんかじゃない」
「私は……」
「まぁ僕なんかが言った所でなんの説得力はないけどね」
アリスの目を真っ直ぐ見て孔士は笑った。その悪意のない無邪気な笑顔はアリスの心の闇を優しく照らしていく。
「あなたは、下品でむさ苦しくて無能で品のかけらもないけど優しいのね」
アリスは心底からの本心を言った。
「それ…誉めてるの、けなしてるの?」
「私は、ほめているわ」
「そう聞こえないのだけど」
「人間一つぐらいは、何かしらの才能を持っていると言われるけどあなたは罠よけ以外でも才能があったのね」
「罠よけの才能ってなんだよ」
「よかったじゃない。私のような可愛い女の子に褒められるなんてそうそうないわよ」
「その上から目線で言うの止めてくれない」
「あら、いいじゃない。もう二度と美女に褒められる事はないから今のうちに噛みしめなさい」
「ムカつく。かわいくないな~」
「これでもけっこうモテるのよ」
アリスの勝ち誇った顔は孔士の癇にさわる。
「顔は良くても性格が最悪だよ。たぶんだけど友達もいなさそう」
「友達?友達とはどこからの関係で……」
「もういい。その言葉で友達がいない事はわかった」
「あなたこそ友達はいるの?見た所、野生の友達は多そうだけど私が言っているのは人間限定よ」
「どんだけ僕をかわいそうな人間だと思っているの。僕だって友達というか仲間はいるよ」
「エア?」
「空気じゃない!」
「ぽち?」
「犬でもない! 人間。ヒューマン」
驚愕の顔をするアリス。
「社会不適合のあなたに友達がいるなんて驚きだわ」
「余計なお世話! って社会不適合ってなんだよ」
「でも、例え想像の産物でも友達がいるなんて以外だわ」
「本当に失礼な奴だな。友達というか、僕にとっては家族の方がしっくりくる。やかましくてお節介な姉さんと小言が多くて細かいけどいつも僕を助けてくれる兄さんかな」
「兄弟ってこと?」
「別に血がつながっている訳ではないけど故郷の国を一緒に出て共に旅してきた」
禅宗と美琴の事を自慢げに話をしている。
「そう……羨ましいわね」
「羨ましい?」
「ええ、私にも姉が一人いるのだけど関係が良好な訳ではないからあなたみたいに仲がいい関係が羨ましいわ」
「いや、けっこう喧嘩とかするけど」
「私は喧嘩さへしたことがない」
「へっ?」
「喧嘩するのには、ある程度深い関係性が必要だけど私達にはそこまでは深い関係ではないの」
「アリスって失言はするくせに変な所で気をつかんだね」
「何か?」
凍える程の冷たい目で孔士を睨みつける。
「いっ、いや僕には好き勝手言うくせにお姉さんには遠慮しているのは以外だと思っただけで…」
「普通はそうなのだけど、姉さんは特別なの」
「特別?」
「ええ、特別な能力を持っている姉さんに追いつきたくて頑張ってみたけど私には到底踏み込めない領域にいる人だったわ」
「それでその姉さんに追いつく為にこんな怖…危ない所にやって来た訳か」
「そんなところね」
「なんで追いつきたいの?」
「えっ!」
孔士の不意をついた質問に驚く。
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