妖精ディアナ【完全版】

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
 あなたと出逢い、星の数ほど交わした鼓動のリズム、とほうもない夢物語、「ずっとふたりだけの秘密」の合言葉。  いま、わたしの胸のなか……華やぐ気持だけじゃない。それにちょっと負けそうな不安とか迷いまで、こころの彩りを手伝うファクターになっている。 「ねえ見て。あそこ……ヴラドのうしろ、虹が架かってる」 「よく見えてるよ、ディアナ」  指さしてくれた方向をふり向かず、かれは応える。クリアに澄んだかのじょの瞳が、鏡になって虹をうつしていたから。「もっと高いところから見てみようよ」  この《黒い森》を象徴する巨木の、手ごろな主枝に腰を据えてうつくしい景色を見わたすふたり。遠くかなたの空、ゆっくり消えかけている虹を指でなぞりながら、ディアナはいう。 「ねえ、ヴラド。を知っても、わたしらって一緒にいられるかな」 「だいじょうぶ。ずっと一緒だよ、ディアナ。一緒にいれば心配ないよ。……いつかが、この森より大きくなったとしても。いつだって未来はかがやいてる」  これは――いつか、ずっとむかし。けっして語り継がれることのなかった物語。  かつて、この森の泉で過ごすわたしらにとって  かなわない夢なんて ひとつもなかったよ……
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加