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あなたと出逢い、星の数ほど交わした鼓動のリズム、とほうもない夢物語、「ずっとふたりだけの秘密」の合言葉。
いま、わたしの胸のなか……華やぐ気持だけじゃない。それにちょっと負けそうな不安とか迷いまで、こころの彩りを手伝うファクターになっている。
「ねえ見て。あそこ……ヴラドのうしろ、虹が架かってる」
「よく見えてるよ、ディアナ」
指さしてくれた方向をふり向かず、かれは応える。クリアに澄んだかのじょの瞳が、鏡になって虹をうつしていたから。「もっと高いところから見てみようよ」
この《黒い森》を象徴する巨木の、手ごろな主枝に腰を据えてうつくしい景色を見わたすふたり。遠くかなたの空、ゆっくり消えかけている虹を指でなぞりながら、ディアナはいう。
「ねえ、ヴラド。外の世界を知っても、わたしらって一緒にいられるかな」
「だいじょうぶ。ずっと一緒だよ、ディアナ。一緒にいれば心配ないよ。……いつかぼくらの世界が、この森より大きくなったとしても。いつだって未来はかがやいてる」
これは――いつか、ずっとむかし。けっして語り継がれることのなかった物語。
かつて、この森の泉で過ごすわたしらにとって
かなわない夢なんて ひとつもなかったよ……
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