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10、田中家の秘密
翔は、陽に近づくと陽の「護り珠」も濃紺になっているのを確認した。
内田隆も異変に気がついて2人の側に寄ってきた。翔は内田に向かって言った。
「ちょっと従姉妹の気分が悪くなっちゃったみたいです。僕はコイツを連れて帰ります。後は内田さんにお願いします。」
「うん。大丈夫だよ。おじさんが4人の女の子を守るよ。」
内田は姪を呼ぶと「田中さん、具合が悪いみたいだよ。おうちに帰した方がいいよ。私をふみことお友達の仲間に入れてよ。」と言った。
ふみこも明らかに普段とは違う陽の表情を見て、叔父の言う通りにした方がいいと思った。
陽の顔は蒼白で魂が抜けたようだった。
翔は陽の手を引いて渋谷駅まで歩いた。陽はずっと黙っていた。
渋谷駅のタクシー乗り場からS県の自宅までタクシーで帰った。
「どうしたの?陽。翔、何があったの?」
陽を支えるように家に戻ってきた翔を見るなり茅野は騒ぎ出した。
「お母さん、ごちゃごちゃ言わないで布団敷いて!なんだか分からないけどコイツ様子がおかしい。」
「不思議の国のアリス」のまま、陽は和室に敷かれた布団に寝かされた。
陽は大きなショックを受けていた。疲れもあった。直ぐに睡魔に飲み込まれた。
1時間ほどして陽が目を覚ますと隣のリビングで翔と叔母が言い争いをしていた。
陽が、襖を開けてリビングに行くと2人は途端に口をつぐんだ。
陽の目から涙が溢れた。
「私…思い出したの。自分が事件に巻き込まれた時のこと……。犯人の顔も思い出した。私がしっかりしていたら、犯人は捕まって、2人の女の子は死ななかったかも知れない……。私の心が弱いから…私が寝こけていたから…犯人が1番悪いけど、私も充分悪い。私のせい……。」
陽は言いながらも涙を溢し続けた。全身が震えていた。
「それは違う!本当は陽も死ぬはずだった!」と翔が叫ぶと茅野が「翔!やめなさい!」と怒鳴った。
「お母さん!もう止めよう!全部、話した方がいい!陽だって『田中一族』だ!」
翔は自分の右手首に掛かった『護り珠』を指差した。
「俺たちの母親の実家が神道の神社だって知ってるだろう?今の宮司は末っ子長男の晃おじさん。おじさんには、みきとたまという双子の娘がいる。」
「知ってるよ。そんなこと。」
「みんなが不思議な力を持っているのは知らないだろう?陽、お前は田中家の人間だから助かった。あの事件の瞬間、珠を持つ田中家の者全員の珠が濃紺になった。おまけに俺は、お前が切り付けられる瞬間を見たんだ。遠隔視だよ。遠いところが見えた。場所もわかった。俺は走っても間に合わないと判断して速攻、警察に電話した。運よく近くにパトカーがいた。これは、お前の運だな。俺は、晃おじさんから不思議な力の話を聞いていた。あのオヤジは胡散臭いだろ。信じてなかった。でも、自分が経験してしまっては信じるしかない。」
陽は自分の左手首の護り珠に触れた。
「本物のお守りだったのね…。みんな不思議な力を持ってるって……じゃあ、ママも?」
「穂月おばさんは、女宮司だ。邪気払いにおいては、かなり強力だよ。本当なら、おばさんが跡取りだったんだ。それが、陽の父ちゃんと駆け落ちしやがった。離婚理由も教えてやる。陽の父ちゃんはバックパッカーとして日本に来た時、宮司姿の穂月おばさんに一目惚れした。陽の父ちゃんは元々実家が教会の無神論者だった。オーストラリアに帰った途端、天啓を受けたんだと。牧師になると言い出した。
宗教と言うものは、好いた惚れたでどうなるものではない。
おばさんは神道の宮司だ。ポール・テイラーはキリスト教の牧師。別れの理由は互いの信教の自由だ。陽、お前の両親、仲がいいだろ。」
お兄ちゃんの話し方がとても優しい響きを持っていたので、陽は少し笑い泣きになった。
「陽、穂月おばさんが何で夜勤ばかりか分かる?夜の病院は看護師も医者も少ない。邪気払いをしているんだ。ひっそりと誰にも知られずにな。」
「じゃあ、茅野おばさんは?」と陽は言うと茅野をじっと見た。
茅野はモジモジして「未来予知……1分後の…。」と小さな声で言った。
それから、おばさんとお兄ちゃんと陽は夕飯を一緒に食べた。陽は、ずっと考え続けていた。お風呂に入っても考え続けていた。おばさんが設えてくれた自分の部屋でも……。我慢できなくなってパジャマのままお兄ちゃんの部屋のドアを叩いた。
お兄ちゃんは、未だパジャマに着替えてなかった。
「あのさ、やっぱり犯人をこのままにして置くのはダメだよ。お兄ちゃんも私も『力』がある。何とかしようよ。アイツを捕まえようよ。4人目をナシにするために。」
「。。。。。叔父さんに相談しよう。明日、奥多摩に行こう。あのお化け屋敷、水川神社に2人で行こう。」
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