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2、傷
穂月は、陽が目覚めた気配を感じるとドアを開けて娘の部屋に入った。
「おはよう。今日から登校ね。大丈夫?行けそう?」
「うん。行く。また夢にダディが出てきたよ。会いたいなぁ。進路が決まったらシドニーに行きたい。」
「そうね。それは良い考えね。ポールと相談するわ。夏休みは毎年シドニーに行ってたんだもの。今年の夏も行かせてあげれば良かったわね。ごめんね。」と穂月は言うと下を向いてしまった。
そんな母を陽は見たくなかった。
「今日から私は学校に行くんだもん。着替えるからママは朝ご飯の支度してよぅ。お腹空いたよぅ。」と小首を傾げて少し甘えた言い方をした。
穂月は顔を上げると「今日はフンパツしてフルーツが沢山乗ったパンケーキにしたよ。さっさと用意しなさいな。」と素気なく言って部屋から出ていった。
ママも相当ショック受けてる。。。と陽は思った。
陽はパジャマを脱ぐ。
すると両腕の肘から手首にかけて無数の傷跡が見える。見えるだけ。
それは既に治りかかっていて赤い線にしか見えない。
背中にも大きな傷がある。陽には見えない。
わざわざ見ようとも思わない。
テキパキと制服を着る。最後に「お守り」を身につける。
陽と母は食事をしながら様々な話をする。陽の父であるポール テイラーの話、学校の友だちの話、親戚の話、テレビドラマの話。有名人のゴシップ。。。でも、「あの日のあの事」だけは話さない。
食事が終わって陽が歯磨きしていると母親がさりげなく近づいてきて言った。
「今日も学校が終わったら、茅野おばさんの家に行くんだよ。」
その言葉を聞いた途端、陽は口から歯ブラシを引っこ抜いて慌ててウガイをすると大声で言った。
「ヤダ!ヤダヤダヤダ!かける翔にいちゃん、ムカつく、サイアク!」
「何を今更。。。昔から私が夜勤の日は茅野おばさんの家に行くっていうのが決まりでしょ。ママは今日、準夜勤なのよ。」
その時、陽は気がついた。
慌ててダイニングのカレンダーを見る。
「そうだった。今は10月なんだよね。。。翔にいちゃんは大学で東京だ。居ないわ。。。」と呟くと穂月の方を向いた。
「いいよ〜。行く。茅野おばさんは優しいし、お金持ちだから晩御飯豪華だし。。。ママみたいに説教ハラスメントしないしね。」
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