6人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
3、青葉女子学園
陽が自宅のアパートを出ると家の前にフーちゃんが居た。
フーちゃんの本当の名前は「内田ふみこ」。陽の親友だ。
陽は地元の公立小学校で男の子達から酷いイジメを受けた。
「バカなガイジン」と言われ、小突かれ、ランドセルを蹴られた。水をかけられ、靴を隠され、教科書を破られるなど日常茶飯事だった。
3年生までは従兄弟の翔が庇ってくれた。
翔は陽より3つ年上で、陽が4年生になると中学に行ってしまった。
翔が小学校からいなくなった直後に、陽は数人の男の子達に取り囲まれ服を脱がされた。それは、異変に気がついた教師によって脱がされただけで済んだ。
しかし、この出来事で陽の母は娘を安全な場所に移動させる決断をした。
私立の女子校に娘を転校させたのだ。
「青葉女子学園」は、小学校から大学までの一貫校。女子校。大学は女子大。学費は名門私立並みに高かった。
陽の父、ポールはシドニーの郊外にあるプロテスタント教会の牧師で母は看護師。そんな両親が、どのようにして娘の学費を捻り出しているのか。。。それを考えると陽は申し訳なくなる。
でも、青女の小学部に編入してからは「学校は怖くないところ」になったとも思う。
青女は一言で言うと「賢くないお嬢様の学校」だった。
クラスメイトは幼稚園受験、小学校受験も失敗した女の子達でお家は、お父様が会社経営者だったり、有名企業の管理職だったり、成功したアーティストだったり。。。要は、お金持ちだった。
育ちが良くて躾が行き届いていて、何処かぼんやりした雰囲気の女の子達の学校。それが青女。
その学校でも陽は孤立していた。人見知りで大人しい性格、父親にそっくりの金髪碧眼。顔立ちも白人。
おまけに陽は絶望的に勉強が出来なかった。
青女は入れば大学までのエスカレーターだ。
そして、中学からや高校から入学する女の子もいた。大抵は本命の学校に落ちた子だ。中途半端な学校に入れるくらいなら青女で「お嬢様」でいてもらいたいという親の願いだ。
内田ふみこは中学から入学してきた。
ひとりぼっちで教室の端っこの席で外を眺めていた陽にふみこから話しかけてきた。
「あなた、とても綺麗ね。」
「は?」
「私って綺麗なものは、何でもかんでも大好きな人間なの。友達になって。」
ふみこは最初からこうだった。意志が強く独立独歩を地で行く人。だから、家の前で待ってたりする。
ふみこは手を伸ばし陽の肩を掴んだ。
「大丈夫?」
陽は、にっこり笑って「大丈夫だよ。」と大きな声で答えた。
青葉女子学園まで電車で一駅。2人でお喋りしながら学校までの道を歩き出した。
陽は、ふみこに自分が心配していることを話した。
「あの。。。フーちゃん。あのね。。。」
「何?どうしたの?」
「私ね、学校をだいぶ休んじゃったでしょう?定期テストとか受けてないでしょう?それは無しにはならないでしょう?追試でしょう?
それで。。。」
「あ〜分かった!了解!お勉強のお付き合いね。大丈夫。陽が本当の馬鹿じゃないのを私は知ってる。中学からサポートしてきて案外手が掛からないのも分かってる。私の空き時間で対応するよ。」
「30点取れればいいの。赤点にならなければ。どうしても高校までは卒業したいの。大学は無理だって分かってるから。」
「お勉強のお付き合い、お母様も叔母様もしてくださるのでしょう?」
「うん。みんなに助けてもらって30点はキープしてきたの。分かるんだけどなぁ。どうして読んだり書いたりするのが苦手なんだろう。」
ふみこは、密かに陽は「識字障害」ではないかと疑っていた。だが、陽の母親は看護師だ。識字障害に気がつかないわけがない。
「勉強のお付き合い」は朗読だった。
教科書を読んであげる。それだけのこと。
読んだ後、口頭で内容をテストすると聞いたことは全部覚えている。大体、一度朗読してあげれば、陽は覚える。
問題はペーパーテストの方だった。字を読むのに時間がかかる。答えを書くのにも時間がかかる。だから50分の間に最後まで行きつかない。30点取ることが陽にとってどんなに大変なことか、ふみこには分かっていた。
「休み時間にやろうよ。」とふみこは陽に提案した。
「ありがとう。」と言って陽は最高の笑顔をふみこに向けた。
一駅電車に乗って学校までは徒歩15分。
いつもならテンションが高いふみこが喋りまくるのだが今日は黙っている。流石に陽も気になってきた。
「フーちゃん。どうしたの?変だよ。いつもならアートの話をしまくるのに。」
ふみこは硬い表情をしている。
「陽は、振り向かずに聞いて。私たちの後を男が付いてきている。電車に乗る前から。」とふみこが言った途端、陽は後ろを見た。
確かに男がいた。ふみこは小声で「振り向くなって言ったでしょ!」と言うと陽の手を引っ張った。
「フーちゃん。アレは無害。従兄弟よ。多分、ママとおばさんに命令されて、私たちをガードしてるつもりなんでしょ。」
「従兄弟ぉ?前に超頭がいいって陽が言ってた人?国立S大附属卒で今は赤門の。。。名前は確か。。。えぇっと。。。」
「翔お兄ちゃんだよ。」
陽は守ってもらっているとも有難いとも思わなかった。ただ忌々しいと感じた。
最初のコメントを投稿しよう!