4、神澤 翔

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

4、神澤 翔

(あかり)は一時限目の授業が終わると教室の窓から外を見た。 校門の前の道路が見える。お兄ちゃんがスマホを弄ってウロウロしていた。 下校時間まで居る気なのかしら。不審者で学校から通報されちゃうよ。バカじゃないの?大学はどうしたの?そんなに私が心配なの?だったら今までの態度はなんなの。。。 (あかり)は幼い頃を思い出していた。 両親が離婚したのは(あかり)が5歳の時だった。それはあまりにも突然で、幼かった(あかり)には理解不能な出来事だった。 それに伴う環境の変化にも戸惑っていた。母、穂月(ほづき)は離婚すると(あかり)を連れて日本に帰国した。実の姉の茅野を頼り、姉の家の近くに母子が暮らす2DKのアパートを借りた。経済的自立のために看護学校に通い始めた。 穂月(ほづき)は自分が娘のそばに居られない時間、(あかり)を茅野に預けた。保育園にも入れなかった。 茅野の夫は大企業の営業マンで帰りが遅く出張も多かった。茅野も穂月と同じく母子家庭のようなものだった。 息子の翔は、とても賢い子供だった。物分かりも良く手がかからない子で母親として寂しさを感じるくらいだった。 茅野は妹から「娘を預かってほしい。」と頼まれた時、嬉しさしか感じなかった。 (あかり)のそばには(かける)お兄ちゃんがいる。2人はいとこ同士。。。兄妹と言っても差し支えないほど仲が良くなった。 (あかり)の子供の頃の思い出には、優しい翔お兄ちゃんしか居ない。 本当に優しかったのだ。 泣いていると何時もハグしてくれた。 一緒のお布団で眠ってくれた。 面白いお話をたくさん聞かせてくれた。 本も読んでくれた。勉強も教えてくれた。 同じ小学校の時は、身体を張って守ってくれた。 お兄ちゃん、喧嘩が弱くてボコボコにされても守ってくれた。 それなのに。。。お兄ちゃんが中学生になった頃から、明らかに距離を置かれた。 目が合ってニコッとしてもニコッとが返ってこない。 話しかけると答えは「うるさい!」。 「ガキにはわかんねぇ」が定番の口癖。 私がいるだけでソッポを向く。 何が原因なのか怒ってばかり。 「バカ」もよく言う。 「ガキ」と子供扱いされるのは、かなり納得していない。だって3歳しか違わない。 高校3年の私と大学3年のお兄ちゃん。体育会系の部活で考えれば、そこには絶対的な上下関係があるなとは思う。 でも、私たちは兄妹。 お兄ちゃんが変わった理由は多分、女の子のことだと何となく(あかり)には分かっていた。 お兄ちゃんにはガールフレンドがいると(あかり)は踏んでいた。 その(あかり)でさえ、まさか「フレンズ」だとは思っていなかった。 昼休みになると、ふみこが自分のお弁当と水筒を持って(あかり)の教室にやってきた。 何時ものことだ。 「(あかり)、今日も自分でお弁当作ったの?」 「今日はママ。まだ、身体のこと心配しているみたい。」 「(あかり)のお弁当、また見たいな。デコが強烈じゃない?(あかり)の未来の子供は喜ぶよ。」 「うん。私、バカだから会社勤めはできない。早く結婚したい。。。でも、男は嫌い。。。結婚もできない。」 (あかり)が落ち込んでしまったので、ふみこは慌てて話題を変えた。 「(あかり)の従兄弟、かなり綺麗な顔してるね。私、綺麗なものは大好き。」 「は?お兄ちゃん?キツネ顔じゃん。それに、あの髪型!前髪ながっ!」 「キツネじゃなくて和顔でしょ。整ってる顔よ。背も高いし、頭いいし、この学校の女子に紹介したら喜ばれますわよ。いかが?」 「ダメね。後で女の子の方に恨まれる。。。なんとなくだけどお兄ちゃんには女がいる気がするの。」 「それって(あかり)じゃない?」 「やめてよ。冗談でもキモい。あ、あのね。お願いがあるんだけど。。。。」 (あかり)は、椅子から立ち上がり、ふみこの耳元で囁くように話をした。それを聞いたふみこは「それ、いいかもね。」と言ってニヤリとした。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!