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8、第一被害者
陽は、神澤家に置いてある自分のTシャツとジャージに着替えると二階の翔の部屋に行った。
一応はノックをして、ドアを開ける。翔はパソコンの方を向いて振り返りもしない。
「お兄ちゃん、怒ってる?」
「。。。。。。。」
陽は翔の両肩を自分の両手で掴んで翔の顔を覗き込んだ。
「そんなに怒ることないじゃない?私は友達と帰っただけだよ。心配してくれたのは有り難いよ。でもね、お仕置きをしたかったの。」
翔は鬼の形相で陽に言い返した。
「なんでオメェが俺にお仕置きするんだよ!」
「だって、ここ何年かマトモに話してくれないし、私のこと殆ど無視してたじゃん。」
「バカと話すとバカになっちゃうから話さなかった!」
「誰がバカだって?!」
「オメェに決まってんだろーが!中身ガキでよ。おにーちゃん、おにーちゃんって鬱陶しいんだよ!外でもそうだろ?オメェが外でおにーちゃんって俺のこと大声で呼んだりするから苦痛なの!ゼッテー兄妹に見えねぇだろ!」
陽は青い目を見開いて「お兄ちゃんの言い分にも一理ある。」と思った。
「確かに見えないね。でも、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。」
「お前さぁ、自分の置かれている立場を分かってんのか?」
陽は何を言われているのか分からない。そして、お兄ちゃんならママやおばさんのように陽が知りたいことを隠さないと思っていた。思っていたから切り出した。
「お兄ちゃん。私が怪我をしたのって“事件“なんだよね?私は忘れちゃって何も覚えていない。誰も本当のことを筋立てて話してくれない。ママはテレビも見せてくれない。スマホを新しくしたのは一昨日。前のはどうしちゃったのかな。それに私の記憶は8月4日の夜から9月半ばに目を覚ますまで飛んじゃってるの。」
お兄ちゃんの表情が微かに硬くなったのを陽は見逃さなかった。
「話して。私の事件のこと。お兄ちゃんなら話してくれるよね!」
「……連続殺傷事件だ。陽が最初の1人で唯一の生存者だ。このS県S玉市で8月に立て続けに事件は起こった。手口が同じなんだ。背後から切り付けられ、ヤラれて、頸動脈をスッパリだ。被害者は全員が女子高生。夜道を1人でフラフラしていた女の子ばかりだ。
事件は1週間で3件。他の2人は遺体で発見された。纏めるとこんなもんだ。」
陽は真剣な顔をしていたが実感が湧かなかった。知らない他人の話を聞いている様な気分だった。
「だから、今日みたいなことは止めてくれ。1人になるのは危ない。犯人は未だ捕まっていない。そいつは陽が何も覚えていないのを知らない。陽を狙う可能性は否定できない。スマホは無くなっていた。亡くなった2人のスマホも見つかっていない。もちろん、警察はスマホの位置情報を探った。だけど分からなかった。情報もダダ漏れしてると考えた方がいいんだ。分かったか?」
陽は暫く考えていた。
そして、翔の顔を見てにっこりした。
「群れていれば大丈夫なんだね。お兄ちゃんは私を守ってくれるんでしょ?おばさんから聞いたよ。わかったよ!ストーカーのように私の後をついて来てね。今は10月!10月って言ったらハロウィンでしょ?」
翔は陽の能天気さに呆れた。そして、こいつは「本物のバカ」だと思った。
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