反撃開始

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 次に目が覚めた時には、いつも寝息を立てている春紀の姿が見えなくて。 「春紀!?」  ガバッと起き上がり辺りを見渡す。  壁掛け時計の針はもう8時をさしていた。  まずい。寝坊した。  今日休みだからって油断して、スマホのアラームかけ忘れてしまったんだ。  リビングに向かうと、やっぱり春紀はいない。  ……最悪だ。お見送りできなかった。  朝ご飯だって作れなくて。  ふと見ると、ダイニングテーブルの上にはトーストと目玉焼きのプレートが置かれている。  心なしか部屋は綺麗に片付いているし、昨日まとめておいた燃やせるゴミは既になくなっていた。  洗濯機は、乾燥の状態で回っていて。 「春紀……」  家事してから出てくれたんだ。  それに爆睡している私を起こさないで。  胸がいっぱいになりながらスマホを見る。 『たまにはゆっくり羽根のばしておいで。何時になっても大丈夫だけど、帰る前には連絡ください』  春紀からのメッセージに、涙腺が緩んだ。  なんてできた旦那様。  思えば春紀は、積極的に家事を手伝ってくれるし、私に対して文句を言ったことがない。  だからほとんど喧嘩をしたこともないのだけど。  大切にされてるってわかっている。  私のワガママや提案をなんでも聞いてくれる時点で、愛も感じる。  ……だけど。 ────「溺愛されたいんです!」  山田さんとの二人飲み会。  ペースアップした私は、ジョッキのビールを飲み干してそう叫んだ。 「わかる。わかるよ。今日はもう、全部吐いちゃいな」  山田さんの包み込むような言葉に絆されて、更に私の愚痴は加速する。 「だいたいですね、昨今では、契約結婚や偽装結婚でも結局は溺愛されるんですよ! どうしたって愛が深まっちゃうんです! 『愛のない結婚だったはずなのに……』とか言って、ラブラブになるのが世の常なんです! なのにですね、普通に恋愛結婚した私が溺愛されないのって、どゆこと!?」 「よくわかんないけど、言ったれ言ったれー」  喉を鳴らしながら、おかわりのビールを呷る。  そして項垂れて泣き出した。 「ううう愛されたいぃ……愛されたいよぉ……愛してるって言ってくれぇ……」 「飲もう! もう今日はとことん飲もう!」  酔ってあまり話を聞いていない山田さんと、再び乾杯をしてグラスを鳴らす。 「だけどさぁ、桃ちゃん、ホントは愛されてるんじゃないのぉ?」  山田さんがニヤリと笑う。 「あんなに秘訣教えたのに、結局昨日も仲良ししてるじゃん」 「え?」  昨日はなんにもしてない。  死ぬほど我慢して、眠りについたはず。 「ここ、しっかりキスマークついてるぞ!」  そう言って山田さんに突かれた首筋。 「え!?」  急激に心臓が高鳴って、元から熱い体温が更に上昇する。 「しっかり愛されてるじゃん」 「そんな……」  昨日のあの温もりは、夢じゃなかったの?
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