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『今、山田さんと解散して横浜駅です。これから帰ります』
調子に乗って飲み過ぎてしまった。
ふわふわした心地のまま春紀にメッセージを送ると、駅前の地下街を歩く。
「おねえさん飲んでたの?」
階段を上って地上に出た途端、若い男性数人に声をかけられた。
「ねえ、俺らと飲み直さない?」
面倒な絡みにムッとしながら、「既婚者なんで」と返答し素通りする。
「人妻かぁー!」
人妻というワードにちょっとニヤけた。
新婚だから、やっぱりまだ慣れない。
「いいじゃん。たまにははめ外そうよ!」
なおもしつこく絡んでくる男性達に辟易して、酔って気が大きくなっていることもあり威勢良く声を出した。
「私は! 旦那一筋なんで!」
────「もも!」
ほら、好きすぎて幻聴が聞こえるくらいに!
「……桃子」
「春くん、今すぐ会いたい。今す……」
振り向いた瞬間、真後ろに立っている春紀に驚愕して絶叫した。
「いたー!」
何故ここに春紀が!?
酔いすぎて、好きすぎて幻覚まで見てしまったとか?
「もも、帰ろう」
「春紀……」
本物だ。幻覚じゃない。
でも、どうして。
「……迎えに来てくれたの?」
春紀は黙って、少し顔を赤らめながら頷いた。
まさか、仕事帰りに迎えに来てくれるなんて。
ということは、私の飲み会が終わるまで待機してくれてたってこと?
「ありがとう! 好き! 好き! 好き!」
「わかったから、帰ろう」
抱きつく私を宥めて、タクシー乗り場の方に促す。
「電車で帰らないの?」
「酔ってるから立ちっぱなしつらいだろ?」
どこまでも優しい春紀に顔がニヤける。
「大丈夫だよ。電車で帰れる」
そう答えた途端、春紀は私の腕を引いて、顔を近付けて囁いた。
「……酔ってるとこ、他の人に見せたくない」
……耳まで真っ赤にして。
「………………」
何が起きたの!?
嘘でしょ!?
春紀がそんなこと言うなんて……
「帰ろう」
しっかりと手を繋がれ、連れられるがままタクシーに乗り込む。
私はもう半分魂が抜けた状態で、だけど胸は驚くほど高鳴って、自分では収集がつかない状況だった。
……おかしい。
これは夢?
いつもの春紀じゃないみたい。
握られたままの手が愛しくて、胸がいっぱいになりながら握り返した。
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