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────「はい」
「ありがとう」
自宅に帰ってすぐに、春紀はコーヒーを淹れてくれた。
ソファーに二人並んで、とりあえず酔いを冷ます為にコーヒーを啜る。
……何から話せばいいかわからない。
それに、どんな顔をしていいのかも。
勇気を出して「ごめん」と切り出す。
「尾行なんてしてごめん。……どうしても心配で。春紀が浮気してるんじゃないかって」
「そんなわけないだろ」
「うん。ごめん。……だってさ、この間、スマホ私に見られないようにしてたから」
「それは……」
春紀は途端に真っ赤になる。
そして諦めたように一度目を瞑ると、スマホを私に差し出した。
「見てみる?」
「いいの!?」
ついにパンドラの箱を開ける時が来た。
恐る恐るスマホを受け取ると、ごくりと固唾を飲んで画面に指を滑らせる。
まず、同僚の人が言っていた通り待ち受けが私の写真であることに絶句した。
いつ撮ったのだろうか、自宅で私が微笑んでいる写真だ。
「………………」
再び春紀を見ると、俯いてもっと真っ赤になっている。
さらにライムやショートメールを確認。
特に怪しいやり取りは見つからない。
ただ一点、私の両親とグループを作成していることに驚いた。
『桃子さん、今日も元気ですよ』
そんな言葉と共に私の写真が添えられていた。
それは週に何回も。
両親は笑顔のスタンプを押して、『いつもありがとう』と返している。
「春紀……」
じわりと涙腺が緩んだ。
私の知らないところで、両親のことも大切にしてくれていたなんて。
母と電話する度に、『春紀さん素敵な人ね』と言われていたのはこういうことだったんだ。
「ありがとう、春紀」
「別に、自己満なんで」
恥ずかしそうに目を逸らす春紀が可愛い。
涙を拭って、今度は画像のデータを確認。
「あっ!」と春紀が急に声を出す。
一度顔を見合わせて、再びスマホを操作した。
「あっ!」
そこに収められていたのは。
『桃子2023.8月』
『桃子2023.9月』
『桃子2023.10月』
『桃子2023.11月』
『桃子2023.12月』
『桃子2024.1月』
『桃子2024.2月』
『桃子2024.3月』
そんなふうに、おびただしい数のフォルダが出てきた。
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