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「高橋さん、可愛いよな」
高校に入学してから少し経って、最近そんな声を耳にすることが増えた。
同じクラスの高橋桃子。
いつも天真爛漫で、ニコニコしている女子だ。
「お前、告ってみれば?」
「いいよ。望みないもん」
屋上で、いつものように男子達と飯を食っている時、予定調和のように高橋桃子の話題が出る。
「岡本は? 桃ちゃんどう思う?」
「俺は……」
確かに高橋桃子は可愛い。
表情がコロコロ変わって、見ていて飽きないし。
「お前はどうせ興味ないよな」
「………………」
だけど住む世界が違いすぎる。
いつも大勢のクラスメイトに囲まれている彼女と、無口で何を考えているかわからないと言われる俺。
きっと、一言も言葉を交わすことなく学校生活は終わる。
そう思っていたのに。
────「岡本くん! 好きです! 付き合ってください!」
放課後、誰もいない美術室に呼ばれて彼女にそう告げられた時、青天の霹靂のように俺の人生が180度変わった。
……どうして俺なんかに告白を。
罰ゲームか?
キョロキョロ辺りを見渡しても、俺達を見張っているような奴らは見当たらない。
それに、目の前の彼女は、真っ赤になって震えている。
とても俺をからかっているようには見えない。
「好きなの! 岡本くんが! 一目惚れ! お願い! 付き合って!」
しかも、圧が凄い。
涙目で、必死になって何度も好きだと言ってくれる彼女に、みるみるうちに喜びが募った。
胸いっぱいに、温かいものが込み上げる。
こんな気持ちは、生まれて初めてのことだった。
「……俺で良ければ」
そうポツリと返した瞬間、彼女は俺に勢いよく抱きつく。
「嬉しい! 好き! 好き! 大好き!」
「………………」
何この可愛さ! 死ぬ! 幸せ!
あまりの幸福に声が出ない。
俺も好きだって、今すぐ伝えたいのに。
「一緒に帰ろ! 記念にプリ撮ろうよ! ねえ春紀って呼んでいい? 私のことは桃子で!」
……圧が凄い。
幸せの圧がとにかく凄い。
こうして俺達の交際は始まったんだ。
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