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「ねえ、チューして」
「……今日は帰りたくない」
桃子が俺に愛情を向けてくれるのが、嬉しくて嬉しくて仕方なかった。
「高校卒業したらさ、うちら同棲しない?」
「海外旅行行ってみようよ!」
「ご両親に会ってみたい!」
だけど本当は、いつだって俺から言いたかった。
一緒に住むのも、二人で遠くに出かけるのも、ご家族に会うのも、きっと俺の方が先に願ってた。
だけど俺から行動を移した途端に、彼女の情熱が冷めてしまうと思うと怖かった。
「春紀、私と結婚してください!」
桃子からそう言ってくれた時は、信じられない気持ちで。
涙が出るかと思った。
本当は、一年も前から用意していたんだ。
彼女に贈るエンゲージリングを。
だから俺は、言葉にできない分、行動で愛を伝えることに励んだ。
とにかく桃子の為に猛烈に働き、できるだけ定時で帰った。
帰り道、ついつい寄ってしまうのは桃子が好きな洋菓子の店や花屋で。
記念日じゃなくても、何度だって彼女にプレゼントを贈り続けた。
家事はできるだけ分担できるように心がけて、桃子が作ってくれた料理は必ず残さず食べる。
好きや愛してるが言えないかわりに、「ありがとう」を精一杯伝えた。
「一緒にお風呂に入ろ」
そんなふうにいつも俺を求めてくれるのも幸せだった。
控えめに言っても可愛すぎるので、結局いつも俺の方が夢中になる。
ここでも声にできない分、愛が伝わるように大切に触れていたつもりだった。
こうしてずっと、桃子は俺のことを愛してくれる。
そう安堵していた俺は、桃子を不安にさせているなんて、これっぽっちも気づいていなかったんだ。
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