大好きな旦那様

3/5
704人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
 午前6時。  アラームが鳴る前に目が覚めて、隣ですやすやと寝息を立てる春紀を見つめた。  気持ち良さそうな、無防備な姿が可愛らしい。 「春くん、おはよ」  耳元で囁いて、おでこや頬にキスをする。  だけど彼は起きない。  悔しくなって触っているうちに、ムラムラとした欲が湧いてくる。  だけど朝から求めることは望みが薄かった。  なんせ彼は、すこぶる寝起きが悪いから。  そういうときの対処法。  鏡に映った自分の肌の、赤くついたキスマークを確認する。  そうして昨日愛されたことを思い出し、強引に心を満たすのだ。  ……昨夜もどうにか彼を営みに誘うことに成功した。  ほとんど毎日のように私から誘っているけれど、今のところ断られたことはない。  たまには彼から誘ってほしいなんて夢みながらも、きっと今夜も私から誘ってしまうんだ。  はあ、と一つため息をついて、一人キッチンへ向かった。  和食好きな彼の為に、毎朝作る朝ご飯。  お弁当屋さんのパートで鍛えた成果もあり、それなりに料理も手際良くなってきた。  お気に入りのルームウェアに、可愛いエプロン。  朝から気合いが入ったメイクに、昨日丁寧にケアした艶々のロングヘア。  これに朝からグラついてくれないかと、毎日のように企てる。  バックハグしてくれないかな、とか、朝から襲ってくれないかな、とか。  だけどいつものように起きた彼は。 「おはよ……」  そう一言挨拶をしてくれたらマシな方だ。 「春くんおはよう! ご飯できてるよぉ!」  まったりとした甘い声でアピールしても、まだ彼の脳は目覚めない。  バックハグバックハグバックハグバックハグ……  そう念を送っても無駄だ。 「今コーヒー淹れるね」  諦めて、背伸びをして棚にあるコーヒー豆をとろうとした瞬間。 「……俺がやる」  ふわりと背後から春紀の匂いがして、心臓が飛び跳ねた。  バックハグとは言えないけれど、確実に背中に密着している。  彼の温もりを感じ、瞬く間に体温が上昇した。 「ご飯作ってくれたんだから、後は俺がやる。……座って」 「ああああああありがとうございますぅぅぅぅぅ」  ヘロヘロになりながら、言われたとおりダイニングの席に座る。  そしてコーヒーを淹れる彼の後ろ姿を見つめた。  なんてことのないスウェットを着ているのに、どうしてこんなに魅力的に映るんだろう。  ……惚れた弱みか。  なんと私は、出会って10年近く経っても、片思いの頃の気持ちが全く色褪せていないのである。 「……いただきます」 「いただきます! 春くーん、大好きな甘めの卵焼き作った!」 「……美味い」  きゃー! 美味いだって!  私の作ったものを、むしゃむしゃ食べている!  なんという征服感! 「……いつもありがとう」 「ぎゃー!」  予告無しの「ありがとう」は心臓に悪い。  相変わらずの無愛想だけど、こうしてちゃんと感謝の言葉を口にしてくれるから、……好き。 「好き!」 「………………」 「好き! 好き! 好き!」 「………………」 『俺も好きだよ』が聞けないまま、朝の団欒が終わってしまった。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!