大好きな旦那様

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 午前6時。  アラームが鳴る前に目が覚めて、隣ですやすやと寝息を立てる春紀を見つめた。  気持ち良さそうな、無防備な姿が可愛らしい。 「春くん、おはよ」  耳元で囁いて、おでこや頬にキスをする。  だけど彼は起きない。  悔しくなって触っているうちに、ムラムラとした欲が湧いてくる。  だけど朝から求めることは望みが薄かった。  なんせ彼は、すこぶる寝起きが悪いから。  そういうときの対処法。  鏡に映った自分の肌の、赤くついたキスマークを確認する。  そうして昨日愛されたことを思い出し、強引に心を満たすのだ。  ……昨夜もどうにか彼を営みに誘うことに成功した。  ほとんど毎日のように私から誘っているけれど、今のところ断られたことはない。  たまには彼から誘ってほしいなんて夢みながらも、きっと今夜も私から誘ってしまうんだ。  はあ、と一つため息をついて、一人キッチンへ向かった。  和食好きな彼の為に、毎朝作る朝ご飯。  お弁当屋さんのパートで鍛えた成果もあり、それなりに料理も手際良くなってきた。  お気に入りのルームウェアに、可愛いエプロン。  朝から気合いが入ったメイクに、昨日丁寧にケアした艶々のロングヘア。  これに朝からグラついてくれないかと、毎日のように企てる。  バックハグしてくれないかな、とか、朝から襲ってくれないかな、とか。  だけどいつものように起きた彼は。 「おはよ……」  そう一言挨拶をしてくれたらマシな方だ。 「春くんおはよう! ご飯できてるよぉ!」  まったりとした甘い声でアピールしても、まだ彼の脳は目覚めない。  バックハグバックハグバックハグバックハグ……  そう念を送っても無駄だ。 「今コーヒー淹れるね」  諦めて、背伸びをして棚にあるコーヒー豆をとろうとした瞬間。 「……俺がやる」  ふわりと背後から春紀の匂いがして、心臓が飛び跳ねた。  バックハグとは言えないけれど、確実に背中に密着している。  彼の温もりを感じ、瞬く間に体温が上昇した。 「ご飯作ってくれたんだから、後は俺がやる。……座って」 「ああああああありがとうございますぅぅぅぅぅ」  ヘロヘロになりながら、言われたとおりダイニングの席に座る。  そしてコーヒーを淹れる彼の後ろ姿を見つめた。  なんてことのないスウェットを着ているのに、どうしてこんなに魅力的に映るんだろう。  ……惚れた弱みか。  なんと私は、出会って10年近く経っても、片思いの頃の気持ちが全く色褪せていないのである。 「……いただきます」 「いただきます! 春くーん、大好きな甘めの卵焼き作った!」 「……美味い」  きゃー! 美味いだって!  私の作ったものを、むしゃむしゃ食べている!  なんという征服感! 「……いつもありがとう」 「ぎゃー!」  予告無しの「ありがとう」は心臓に悪い。  相変わらずの無愛想だけど、こうしてちゃんと感謝の言葉を口にしてくれるから、……好き。 「好き!」 「………………」 「好き! 好き! 好き!」 「………………」 『俺も好きだよ』が聞けないまま、朝の団欒が終わってしまった。
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