大好きな旦那様

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「はい、春くん! お風呂上がりのビールどうぞ!」 「……どうも」  なんて、春くんったらポーカーフェイス気取っちゃって。  さっきあんなにお風呂でイチャイチャしたくせに。  春紀は言葉や表情では全く愛情表現しないのに、こっちが誘うと必ず応えて抱いてくれる。  それは結婚したからという義務感なのか、それとも25歳の若い肉体として健全な反応なのかわからない。 「今日はスタミナ満点のレバニラと、餃子でーす!」  だけど私の暴走はこれから!  まだ春くんとのイチャイチャに満足していない。  これから2ラウンド目を仕掛けるつもり。 「でね、今日もいつものお兄さんが来てくれて」  夕食時は、いつもとりとめのない話を聞いてもらう。  ささいなことも共有してほしくて、話は尽きない。 「岡本さんの笑顔見ると、疲れが吹っ飛ぶって!」  私、お客さんから岡本さんって呼ばれてるんだよ!  私、春紀の妻だから!  今度は、岡本さんちの奥さんって呼んでもらおうかな、なんつって! 「なんつって!」  テンション高く話す私とは反して、どこか浮かない顔の春紀。 「……そうなんだ」  つまらなかったかな。  流石に三日連続で建設業のお兄さんのネタは飽きたか。  だけど毎日来てくれるから、印象に残りやすくて。 「明日も来るかな?」  思わずそんなことを呟くと、春紀はグラスのビールを一気に飲み干した。 「おかわり、いる?」 「……いや、大丈夫」 「……………」 「……………」  なにこの気まずい空気。  せっかくこれから2ラウンド目が始まるっていうのに。 「春くんは、今日の仕事どうだった?」  ここは妻として旦那の話を傾聴して、ストレスを発散させて癒さなきゃ。 「……別に、特筆するようなことは」 「そう……」  なんでいつも、なんにも話してくれないんだろう。  もしかして、後ろめたいことがあるから? 「浮気してる!?」 「なんでそうなるんだよ」 「だって……」  なんにも話してくれないから。  ……ちょっとしたことで、不安になるんだよ。 「……ねえ、早くお布団いこ」  食事を終えると片付けも早々に、二人で寝室に移動する。  並んでベッドに入って、灯りを消して。  いつも私から彼に抱きついて、夜の営みが始まる。 「ん……」  まるで義務のようにキスをされると、虚しくなる時もある。  だけど私に触れる手はいつだって優しくて。 「もも……」  抱かれている時だけは、名前を呼んでもらえる。  決して「愛してる」とか、「好きだよ」なんて言ってもらえないけれど。  こうしている時だけは、愛されてるって実感できるんだ。  だから私は、今夜も彼を求める。  いつだって泣きそうになるのを堪えながら。    
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