ネズミの話

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ネズミのケツの穴を縫い合わせると、糞ができないストレスで攻撃的になり他のネズミをかみ殺すそうだ。そしてネズミたちは互いに喰いあい、絶滅する。 ある国で植物を食い荒らすネズミの種類―――名前はなんだったか、まあいいや。に対してそのような撲滅法が提案されたことがある。動物愛護協会が批判して実際には実行されなかったらしいが。 生理的欲求を満たしたくても満たせない、というのは生き物にとって強いストレスだ。もちろん人間にとっても。 では、私の話をしようか。口を口枷(くちかせ)でふさがれ、手足を拘束されて尿道には管がささっており常に膀胱に不快感がある。そんな私はまるで、ケツ穴をふさがれたネズミみたいだと思わないか?まぁ、いかにストレスを感じようとも、拘束されていて首と手の指くらいしか動かせないのだが。 ああ、なんだっけ。何が言いたいのかというと、つまり、おなかが空いた。 朝。目が覚めてしばらく真っ白な部屋――小さな机がぽつんと置かれており、その上には花瓶に花が生けてある、を眺めているとコツコツと靴音が近づいて来る音がした。私は期待に胸を膨らませながら、靴の主の到着を待った。数十秒後、扉が開いた。 「おはよう、ツクモ」 ナース服を着た女性が静かな笑顔で微笑んだ。口をふさがれているため挨拶を返すことはできないが、私は精一杯の笑顔で答えた。 「最近はすっかり暖かくなってきて、もう春って感じね」 彼女は机の上にある花瓶から花を取り出すと、持参したごみ袋に捨てた。 「今日は私、少し早めに起きてしまったので、近所の公園を散歩したの。」 手慣れて手つきで花瓶の水を替えた。 「朝の公園って、初めて行ったけどとても気持ちがいいのね。鳥たちが歌っているのを聞いたわ。あなたも一緒に行けたらいいのに」 そう言って少し目を伏せて、すぐに花瓶に新しい花を挿した。 そして、それが終わるとすぐに、私のほうへと歩いてきた。 食事の時間だ。 彼女はチューブを取り出した。中には、赤いどろどろとした流動食のようなものが入っている。それを見えないが、おそらく私の腹に接続した。 やがて空腹感がだんだんとなくなって、満たされていく。 彼女のほうに目をやると、平らな板に何かを書き込んでいた。 しばらくすると彼女は 「また明日」 と微笑んで、出て行った。 ああ、また明日。 その日、私は彼女と一緒に公園に行く妄想をした。朝の日差しを浴びて、私と彼女は手をつなぎ踊った。鳥たちがさえずり、あたり一面には花が咲いていた。
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