ネズミの話

4/10
前へ
/10ページ
次へ
今日も彼女はやって来た。 「回し車を買ったら、ハム子がずっとくるくる回してて可愛いのよ」 ハム子は、彼女が飼っているハムスターの名前だ。 目の前にスマートフォンを持ってこられる。ハムスターが、GIFのように延々回し車を回す動画が流れていた。 回しても、回しても前に進むことはないのに愚直にも回し続けるそのさまは、まるで人生のようだと思った。 「ね!可愛いでしょう~~~」 彼女は同調を求めたが、私の口は、口枷でふさがれているから何も言えないぞ。 ただ、もし私が喋れたなら「君のほうが可愛いよ」と言おうと、ふと思った。 さすがにクサすぎるだろうか。 彼女はスマートフォンをしまうと、チューブを取り出し、私の腹に接続した。 「また明日」 微笑むと、病室を出て行った。 やがて空腹感がだんだんとなくなって、満たされていく。 その日、私は夢を見た。ハムスターになって、彼女の部屋にある檻の中で、回し車をくるくると回していた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加