#04 思い入れが、重い家

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#04 思い入れが、重い家

昔住んでた家が恋しい。 古くて狭くて、今思えば立地もあまり良くなかったけれど、沢山思い出が詰まった家。 今は亡き祖父母も一緒に過ごした家。 夏には狭い庭に小さなプールを出して、隣の家の子と遊んだり、冬は石油臭いストーブの前で手足を温めながら絵本を読んだりした家。 だけど、子供の頃に住んでたその家は、 私の成長とともに、私の記憶から薄れていく。 あの頃はスマホどころか「写メ」を撮れるガラケーも無かったし、アルバムにはインスタントカメラで撮った写真が4〜5枚残っているだけ。 母よ、私の顔のアップは飽きるほど撮っただろう? それより周りの景色を撮っておいて欲しかった。 だけど確かにこういうのって、何年か経たないと気付かないものだ。 ああ、昔住んでた家に戻りたい。 戻れなくてもいいから一目見たい。 あの頃の懐かしい思い出に浸りたい。 いっそ夢にでも出てきてくれないかなぁ。 そう願い続けた甲斐があってか、 ある晩、初めて家が夢に出てきた。 だけど、夢の中の家は色々おかしかった。 玄関がないし、屋根さえもない。 こんな雨風も凌げないボロボロの建物は私の家ではない。 起きてから、夢に出てきた家を思い出す。 やっぱり全然違うな。 次はちゃんとした家が出てきますように。 数日後、2回目の家の夢を見る。 今度は玄関と屋根が付いていた。 だけど、部屋の仕切りが全くないし、トイレや浴室もない。 起きてから、再び私は夢の家を思い返す。 うん、まだまだ違うところばかりだ。 次はちゃんとした家が出てきますように。 それから更に数日後、3回目の夢を見る。 今度は部屋に仕切りがついており、トイレや浴室もきちんと存在した。 だけど、家具が全くない。これじゃあただの空き家だ。 起きてから、またまた私は夢の家を思い返す。 今度は内装もちゃんと欲しいところだ。 次はちゃんとした家が出てきますように。 更に数日後、4回目の夢を見る。 今度は家具が完備されていた。 完成度はかなり高かったが、少しテイストが違うみたい。 起きてから振り返る。 夢の中の家はお洒落過ぎた。 私の家は、もっと散らかっていて、昭和な雰囲気漂うテイストだったと思う。 後もう一息なんだけどなぁ。 ある時、ふと思い立って不動産サイトを閲覧してみる。 あの家は建売だったから、似たような家が近所に沢山あったはずだ。 どこか売りに出されていたら、もしかしたら写真を見ることができるかも。 家があった地域を検索してみると、何と私の住んでいた家がピンポイントでヒットした。今は空き家だったのか。 内部の写真は隅から隅までしっかり掲載されており、私の記憶の隙間を埋めていった。 ああ、懐かしい。家具は無くても、やっぱりイメージした通りの家だ。 それから暫くして、家がまた夢に出てきた。 もう5回目か。 間取り、内装全てにおいて完璧なものになっていて、私はとても嬉しい気持ちになり、思わず廊下を走り回ってしまった。 その後も何度か、完全体となった家で過ごす夢を見た。 2年後、私はまた例の不動産サイトを覗いていた。 あの後家は誰かに購入されたらしく、一時期サイトからページが削除されていたのだが、半年もしないうちにまた再掲載された。 そんなことが、2年間で3度も起こっていたようだ。 今また、その家は売りに出されている。 中々住人が定着しないのは何故だろう? ある時、友人からとあるサイトを教えられる。 それは、事故物件を取り扱うサイトだった。 興味本位で、家の場所を検索してみると、 私の家は何と事故物件扱いとなっていた。 「そんな馬鹿な、私が住んでいた頃は何も問題なかったのに!」 後に住んだ人の身に何かが起こったのだろうか。 せっかく私の思い出が詰まった家が、曰く付き物件扱いされるなんて悲し過ぎる。 私は詳細を調べようと、その家にマーキングされた赤い炎のようなアイコンをタップする。 そこに書かれていた内容は、 『毎晩、女の人が家の中をうろついている』 『あれも違う、これも違うと文句を言う霊が現れる』 『最近はハイテンションで廊下を走る音がうるさい』 と書かれていた。 あれ?何だか私みたいなお化けだな。 〈おわり〉
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