9人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
#04 思い入れが、重い家
昔住んでた家が恋しい。
古くて狭くて、今思えば立地もあまり良くなかったけれど、沢山思い出が詰まった家。
今は亡き祖父母も一緒に過ごした家。
夏には狭い庭に小さなプールを出して、隣の家の子と遊んだり、冬は石油臭いストーブの前で手足を温めながら絵本を読んだりした家。
だけど、子供の頃に住んでたその家は、
私の成長とともに、私の記憶から薄れていく。
あの頃はスマホどころか「写メ」を撮れるガラケーも無かったし、アルバムにはインスタントカメラで撮った写真が4〜5枚残っているだけ。
母よ、私の顔のアップは飽きるほど撮っただろう?
それより周りの景色を撮っておいて欲しかった。
だけど確かにこういうのって、何年か経たないと気付かないものだ。
ああ、昔住んでた家に戻りたい。
戻れなくてもいいから一目見たい。
あの頃の懐かしい思い出に浸りたい。
いっそ夢にでも出てきてくれないかなぁ。
そう願い続けた甲斐があってか、
ある晩、初めて家が夢に出てきた。
だけど、夢の中の家は色々おかしかった。
玄関がないし、屋根さえもない。
こんな雨風も凌げないボロボロの建物は私の家ではない。
起きてから、夢に出てきた家を思い出す。
やっぱり全然違うな。
次はちゃんとした家が出てきますように。
数日後、2回目の家の夢を見る。
今度は玄関と屋根が付いていた。
だけど、部屋の仕切りが全くないし、トイレや浴室もない。
起きてから、再び私は夢の家を思い返す。
うん、まだまだ違うところばかりだ。
次はちゃんとした家が出てきますように。
それから更に数日後、3回目の夢を見る。
今度は部屋に仕切りがついており、トイレや浴室もきちんと存在した。
だけど、家具が全くない。これじゃあただの空き家だ。
起きてから、またまた私は夢の家を思い返す。
今度は内装もちゃんと欲しいところだ。
次はちゃんとした家が出てきますように。
更に数日後、4回目の夢を見る。
今度は家具が完備されていた。
完成度はかなり高かったが、少しテイストが違うみたい。
起きてから振り返る。
夢の中の家はお洒落過ぎた。
私の家は、もっと散らかっていて、昭和な雰囲気漂うテイストだったと思う。
後もう一息なんだけどなぁ。
ある時、ふと思い立って不動産サイトを閲覧してみる。
あの家は建売だったから、似たような家が近所に沢山あったはずだ。
どこか売りに出されていたら、もしかしたら写真を見ることができるかも。
家があった地域を検索してみると、何と私の住んでいた家がピンポイントでヒットした。今は空き家だったのか。
内部の写真は隅から隅までしっかり掲載されており、私の記憶の隙間を埋めていった。
ああ、懐かしい。家具は無くても、やっぱりイメージした通りの家だ。
それから暫くして、家がまた夢に出てきた。
もう5回目か。
間取り、内装全てにおいて完璧なものになっていて、私はとても嬉しい気持ちになり、思わず廊下を走り回ってしまった。
その後も何度か、完全体となった家で過ごす夢を見た。
2年後、私はまた例の不動産サイトを覗いていた。
あの後家は誰かに購入されたらしく、一時期サイトからページが削除されていたのだが、半年もしないうちにまた再掲載された。
そんなことが、2年間で3度も起こっていたようだ。
今また、その家は売りに出されている。
中々住人が定着しないのは何故だろう?
ある時、友人からとあるサイトを教えられる。
それは、事故物件を取り扱うサイトだった。
興味本位で、家の場所を検索してみると、
私の家は何と事故物件扱いとなっていた。
「そんな馬鹿な、私が住んでいた頃は何も問題なかったのに!」
後に住んだ人の身に何かが起こったのだろうか。
せっかく私の思い出が詰まった家が、曰く付き物件扱いされるなんて悲し過ぎる。
私は詳細を調べようと、その家にマーキングされた赤い炎のようなアイコンをタップする。
そこに書かれていた内容は、
『毎晩、女の人が家の中をうろついている』
『あれも違う、これも違うと文句を言う霊が現れる』
『最近はハイテンションで廊下を走る音がうるさい』
と書かれていた。
あれ?何だか私みたいなお化けだな。
〈おわり〉
最初のコメントを投稿しよう!