二章 試験

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── 自室のベッドの上でカバンを開き、僕は困惑したまま父さんから手渡されたカバンへと三日分の服を詰め込んでいく。 乗り換えの馬車が来る町までに村から一日、その町からグルーランド魔術学院がある街グルーランドまで一日、前日入りの宿で一日ということらしい。 ベッド脇に置いた渡されたカバンに入っていたじゃらりと音を立てる銅貨や銀貨の袋──馬車代と宿代ということらしい──を一瞥しため息を吐く。 『受かったなら手紙を出してくれ。できるだけ早く必要なものは送るから』 なんて言われたが正直受かる気はあまりしていない。 以前の世界では受験の際はそれなりに詰めたものだ。だがこの世界で勉強なんてほとんどしていない。 父さんの教科書を読んだり村長の持っていた本を借りたりしていたが、それは勉強とは言わないだろう。 いやそれ以前にだ。 そう、僕は入学試験の試験内容を知らないのだ。 筆記試験をやるのか、実技試験だけなのか、それとも僕が思いもよらない方法の試験があるのか。 考えていると胃が痛くなってきた。 (無理、じゃないか?)どう考えても無謀だ。 僕は大きなため息をつく。 (……やっぱり二人を説得しよう)と自室のドアを開けリビングを抜ける。 その先にある二人の寝室に近づくと寝室の扉越しに声が聞こえてきた。 (……なんだ?)僕は耳をすませる。 ── 「魔術学院の入学試験証なんて高かったでしょ?」 「あぁまぁうん……。そのお肉とかはしばらく我慢かも。……ごめん」 「いやお金のことはいいの。それにニオが喜びそうな事なんて他に思いつかないし」 「今まで文句も言わずずっと仕事手伝ってくれていたから少しくらいはな。ニオ喜んでくれてるといいけど……」 ── ……僕はそっと静かに自分の部屋に戻った。 あんなの聞かされて無理だ、なんて言えるわけがない。 (……やれるだけやってみるか) 僕は改めてカバンへと着替えを詰めていった。 ── あまり眠れなかった次の日の朝、僕は鞄を片手に家の前に立っていた。 ドキドキと跳ねるような早い鼓動の原因は、寝不足だけではないのは明白だ。 ふうと息を吐き、何度か中身を確認した鞄の持ち手を握る。 「気を付けて行ってくるんだぞ」と腕を組んだ父さんと、「いつでも帰ってきていいからね?」と少し心配そうな顔の母さんが玄関から僕を見ていた。 「……うん、ありがとう。……じゃあ行ってきます!」と二人に手を振り家を後にした。 『村の出入口に来る』と聞いていた僕がそちらへと向かうとすでに馬車は到着していた。 (……そういえば馬車なんて乗るの初めてだな) なんて思いながら馬車に近づく。 以前見たパラセル家のキャビンと比べると良くも悪くも年季を感じさせるキャビンから馬の方へ視線を動かす。 茶色の二頭の馬はぶるると鼻を鳴らしながら文字通り道草を食べていた。 草を噛んでいるのであろう口をもごもごと動かしている一頭が僕と目を合う。が、興味がなかったのかすぐに目線を逸らされた。 「えっとタニガ町まで行くのは君かな?」 その時馬車の中からそんな声がした。 そちらを振り向くと一人の青年がキャビンからにゅっと頭を出していた。 「え、あ、はい!」 青年は頷く僕の持つ鞄を見ると「はいお荷物拝借」と言って僕の鞄をするりと取り上げると、キャビンの中へ入れる。 「ほら君も乗りなよ」 ドアを開きタラップを降りて出てきた青年は黒いオーバーコートに身を包み、腰に剣を差していた。 青年と入れ替わるようにキャビンへと入る。 どうやらこのキャビンは一人用らしい。 お世辞にも広いとは言えないキャビンの内装は、簡素な物で革の張られた一人用の椅子が置かれているだけで、他には特に何もない。 僕は静かに椅子へ座った。 それから少しの時間の後、座っている僕のちょうど真正面にある窓に青年の後頭部が現れる。 どうやら御者席に座ったようで、首を傾けこちらに視線を寄越す。 「さて、じゃあ出るけど大丈夫?出発したらもう戻らないからね?」 「大丈夫です」僕がそう言うと青年は目を細めると「OK、じゃあ出発!」前を向き直し手綱を動かした。 ── 「にしてもマラウイ村から一人でタニガ町なんて何しに行くんだい?」 窓から外の景色を見ていた僕に青年はそう問いかける。 もうマラウイ村付近の森は抜けていて、原っぱのような所を馬車は進んでいた。 「えっと、実は僕グルーランド魔術学院の入学試験を受けに行くんです」 「え、あのグルーランド魔術学院?君相当魔術適正高いんだな。わざわざあの名門が届けてくるほどなんて」 「いやそれはその……」 「入学試験証なんて村住まいじゃとてもじゃないけど買えないだろうし、相当な天才なんだな。 いやー人は見かけに、っておっと流石に失礼だったね。 あ、そうそう俺の名前はダルって言うんだけど、偉くなったら贔屓に頼むよ」 「あぁいやそれが──」 僕は入学試験証は親から渡された物であって、送られてきたわけではないと説明する。
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