二章 試験

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朝日が照らす畑の中、玉ねぎを引き抜いている少年がいた。 背負っている籠へぽいぽいと慣れた手付きで収穫していく少年は、ニオ。 パトルとの別れから約五年が経ち、ニオは十五歳になっていた。 背丈も父親と変わらないくらいまで伸びており、畑仕事のおかげか程よく筋肉も育ち、逞しく育っていた。 「父さん玉ねぎ終わったよー!」ニオは玉ねぎが植わっている場所から少し離れた場所のジャガイモを引っこ抜いているティガルダへ声を掛ける。 「その玉ねぎ家に持って帰ったらあとは俺がするから帰っていいぞ!」と返答がきたのを聞いて、家へと戻っていく。 籠を玄関の脇に置いたニオは再び家を出る。向かう先は河原だった。 以前と特に変わらない河原にたどり着いたニオは川で流れる水で簡単に手についた土を落とす。ニオは周囲に人がいないかの安全確認をして、「よし」と小さく呟くと右手の人差し指を立ててぽっと小さな火を生み出した。 以前のように揺れることもなくぴたりと止まっている火を見て、中指を立てて同じように火を作る。 それを薬指小指親指を続けていき右手の指全てに小さな火が燃えていた。 ニオはそのまま左手でも同じ事を始める。 小さな魔術の火を指先に安定させる、魔術で遊ぶ前にこれを毎回ニオは行っていた。 パトルが都に行き、同年代が周囲にいなくなったニオは暇な時間、村長から借りた本を読んだり魔術で遊ぶなんてことをしていた。 他に娯楽らしい娯楽もないのと、単純に以前の世界ではなかった魔術というものにニオの興味を引いたというのもあるだろう。 ニオは全ての指に揺らぎのない火が点火したのを見て、ふうと息を吐きながら指先の火達をぱっと消した。 「さてと」今度は右の掌を広げ掌大の火の玉を作り出した。 そして左手で地面の石を拾うと向こう岸に緩やかなアーチを描くように石を投げる。 ひゅうと緩やかに落ちていく石に対し、ニオは右手の火の玉を放った。 石は向こう岸の河原に着地するより先に、火の玉と空中でぶつかり、火に押されるような軌道へと変わり改めて地面へと着地した。 「よし」ニオは同じように小さな石を拾っては投げ、それに向かって火の玉を当てるという事を繰り返す。 数分後満足したニオはぐっと体を伸ばし、深呼吸をする。 「んじゃ次は──」 と彼は新たに炎を両手に作り出す。 こうして彼は日課のルーティンである火の魔術を使い遊ぶのだった。 ── その日の夜、フォック家はニオ、ティガルダ、アクータの三人で食事をしていた。 ティガルダはパンを齧ると、ふと思い出したように「あ、そうだ」と呟く。 唐突に立ち上がり、玄関の方へと向かっていくティガルダをニオは「どうかしたの?」と視線で追う。 数秒後リビングに戻ってきたティガルダの手元にはシーリングワックスで封がされた三つ折りの紙があった。 それはこの世界での手紙であり、何度かニオもそれ自体は見たことはあった。 「ニオ開けてみろ」 「え?いやなんの手紙なの?」 「いいから、ほら」ちょうど夕食を食べ終え、空いていたニオの手をティガルダは取ると、手紙が置かれる。 ニオは怪訝な顔をしながらしげしげとその手紙を見る。 「大丈夫よニオ、何も爆発するわけじゃないんだから」 「そんな変な顔せずに良いから、中身を確認してみろ」 両親のそんな声にニオは「わ、わかったよ」と紙を破らないように気を付けながらシーリングワックスをはがし、ゆっくりと紙を開く。 そこには【グルーランド魔術学院入学試験証】と書かれていた。 ニオは「ええ?!」と思わず声をあげる。 グルーランド魔術学院はニオ達が生きるアーストリア王国で一番の名門だとニオは以前読んだ本の知識で知っていたからだ。 「い、いやいや魔術学院?な、なんで?」 「なんでもなにも、暇さえあれば火の魔術使って遊んでいるじゃないか」 「魔術に興味あるんでしょう?折角だから本格的に学んで来なさいな」 「学んで来なさいったって……。い、いいよ、グルーランドまでの旅費も馬鹿にならないしそれより僕は父さんの畑仕事を──」 「なんだ?もう俺から畑仕事奪おうってか?」 「違う違う!そういう意味じゃ──」 「まさかもう畑仕事どころか畑自体を……」はっとした顔でティガルダとアクータは目を合わせる。 「違うって!仕事手伝いたいって話!」 すこしむっとした顔のニオを見て二人は笑う。 「冗談よ。それにねニオ、子供が旅費なんて気にしないの」 「そうだそうだ。俺もアクータもまだまだ若いんだし手伝いとか気にしなくてもいいんだ」 「そ、そうは言ってもさぁ……」 「あとなニオ」 「え?うん」 「明日迎えの馬車来るから用意済ませとくんだぞ」 「……へ?い、いやどういう──」 ポカンとした顔になるニオの隣で静かに手を合わせ「ご馳走様」とティガルダは言うとニオの前の空になった皿を手に取る。 「はいお粗末様でした」それに倣うようにアクータは立ち上がる。 「俺皿洗いしようか?」 「あら手伝ってくれるの?」 なんて皿を手に台所に歩いていく二人をニオは目線で追うしか出来なかった。
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