二章 試験

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パトルは「ううん、でも分かったの」と呟き、両手を伸ばす。 僕の右手を取ると手のひらを上に向けパトルはじっとその手を見る。 「……大きなゴツゴツした手」農作業の手伝いで出来たタコやマメの痕で不格好な僕の手を、パトルは僕の手とは対照的な自身の、きめ細かい絹のような肌の白い指で撫でる。 マメの痕を撫でられたり、皮がぶ厚くなった母指球の辺りをすりすりと撫でられ、何も言えなくなる。どこか蠱惑的に感じる指使いにぞくぞくとした。 (……い、いやとぼけてる場合じゃない!) 背後から感じる視線もあり──スラエさんと上級生の視線だろう。と言っても背を向けていることもあり、パトルに手を撫で回されているのはおそらく見えていないはずだ。──僕は、「ま、まぁ父さんの仕事手伝ったりしたりしてたからね。はは……」気恥ずかしさとくすぐったさが来た。 「あ、あのさ、今ってパトルは学院の近くに住んでるの?」なんて言いながらそれとなく手を引こうとする。 だが僕の右手の下に置かれていたパトルの右手がそれを阻んだ。 (えっ、ちょっ)手首をそっと掴まれたのだ。強くはない、勢いよく引けば振りほどけるであろう位の力で。 だだそれでも僕の手は動かなくなった。 半端に開いていた僕の手へ左手を重ねると指をするりと絡ませてくる。 柔らかく温かな感触が掌にじんわりと広がった。 一瞬呆気にとられていたが、すぐに「パ、パトル?!なにしてんの?!」弾かれたように慌てて手を引く。 「あ」 「あじゃないよ?!」 どこか不服そうな顔をしたパトルだったが、すぐに笑顔に戻ると「久しぶりに再会できたから嬉しくてつい。元気そうで良かった」となにかに納得したのかうんうんと頷く。 「それと私は学院近くに住んでるよ。父様が学院近くの家を買ってくれたから」 「そ、そうなんだ」(え、今家って言った?) 「部屋とか余ってるし良かったらニオも家に来てもいいよ?この寮かなり遠いし、なんなら私と一緒に家から学院通っても──」 「……あぁうん、いずれ遊びに行かせてもらうね」 むっと眉間にシワを寄せるパトルの背後にある寮の入り口の扉が唐突に開いた。 中に入ろうとした青色のローブを羽織った男は僕達を見て、「どいてもらえるか?」と言った。 僕が「すみません」とパトルと共に脇の方に避けると寮内へ入ってきた男に続き同じ格好をした人達がぞろぞろと入ってくる。 スラエさんに声をかけている所を見るとおそらく上級生なのだろう。 ローブを着たぼんやりと人達の方を見ながらそんなことを思う。 「ニオの顔も見れたしとりあえず今日は帰ろうかな」 「あ、あぁうん」 「じゃあまたねニオ」 パトルはそう言って手を振り扉から出ていった。 (……パトルってあんな感じの子だったっけ?) なんて思いながら振り向くと、いくつかの瞳がこちらに向いていた。 テーブルに座っていた上級生とスラエさんが僕の方をちらちらと見ながらぼそぼそと何かを話している。 「無表情で有名なパラセル家のご令嬢が──」 「やっぱりただならない関係──」 「貴族と禁断の──」 断片的に聞こえてきた声はそんな感じだった。 うん、この部屋に残っていても仕方ない、というか変に深堀りされるだけだなこれ。……よし部屋に戻ろう。 僕はその人たちに会釈して足早に自分の部屋へ戻ることにした。 途中でなにやら呼び止められた気もするが聞こえないふりをする。 小走りで階段を上がり部屋に戻ってくると、ベッドに仰向けになったルーマスが僕の方を見てくる。 「よーおかえり、誰だったんだ?」 「……さっき実技試験の終わりに前に出てきてた実技試験優秀者っていたでしょ?あの子」 「あぁはいはいあのパラセル家のご令嬢ね。て、えぇ?!ニオ知り合いなのか?」 「まぁ知り合いと言えば知り合い、かなぁ。ってもまぁ昔馴染みってだけだけど」 「へぇ」とルーマスは頷くとそれ以上の興味はなくなったのか、「よし、んじゃ改めて寮の探検と行こうぜ」ベッドから飛び起きる。 僕も頷き、ルーマスと共に部屋から出た。 ── 魔力によって発光する魔石が等間隔に壁に設置されている──と言ってもまだ夕方ということもあり窓から差し込む日光があるからか光ってはいない──長い廊下をニオとルーマスの二人は歩いていた。二階は、全て一年生寮になっており、二〇一から二十〇まである部屋が連なってだけで他にはトイレがあるだけで特に何かあるわけではない。 時折部屋から出てくる、クラスメイトになるであろう少年達と簡単な自己紹介をしながらニオとルーマスは二階の端へたどり着いた。 「二階は特になにもないな」 「そうだね。シャワー室とかは一階なのかな?」 「どうだろうな」ルーマスは右手にある一階へ下る階段を見た。 二人を案内したスラエやニオが小走りで上がった階段は二〇一側にあり、今ルーマスが見ている階段は二十〇側にある。 「こっち側にも階段あるんだな」ルーマスはそういってその階段を下りていく。 ニオもそれに続いた。
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