三章 入学

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「──きて──マス、ルーマス!」 体を揺すられた俺は顔を顰めながら目を開くと赤いローブを身につけた男の姿があった。 (え、誰だ……ってあぁそうか。俺今寮にいるんだったな) 寝起きのだるい体をなんとか起こしふぁと欠伸をする。 ベッドの脇に立ち昨夜渡された学院指定の一年生用の赤いローブを身につけ、胸元にはブロンズで出来たCというアルファベットのバッジを付けているニオを見て「もう着替えてんの早いな」とベッドから起き上がる。 「まぁ早く目覚めたからね」 「ニオは寝床違うと眠り浅くなるタイプだったりするのか?」 「というより、家にいる時だともうこの時間には父さんの仕事の手伝いやってる時間だし目が覚めただけだよ」 「あぁなるほど。ニオの父ちゃんって仕事なにやってんの?」俺もニオに倣いベッドの隅に置いていたローブを手に取り着替えを始める。 「農家やってるよ」 「あーどうりで。それでニオ腕とか太いんだな」 俺と背の高さこそ大差ないが腕や足の太さや、肩幅は明らかに頑強だ。 「家の近所にいた漁師の兄ちゃんみたいな体してるなとは思ってたんだ」 「ん?漁師ってことはルーマスは海沿いに住んでたの?」 「あーそうそう。俺はサウスウィッチって港町……いや港町はかっこよく言いすぎだな。漁村の生まれ」 「なにそれ」ニオはふふと笑う。 「とにかく田舎の人間ってこと」 「僕も田舎の村から出てきてるから一緒だね。……でもいいなぁ海。僕行ったことないよ」 「マジ?じゃあサウスウィッチ来いよ、海が綺麗なのが唯一の売りだからよ」 「いいね、その時はお世話に──」 「朝食の時間だよ起きな!」 そんな声が突然響く。あまりに大きな声にびくりと肩が揺れた。 (……声でけぇな) ニオと目を見合わせ、「とりあえず朝飯食うか」と俺はCのバッジをローブに付けながら立ち上がる。 「そうだね」ニオと共に俺は部屋を出た。 ── 朝食を済ませ、柔らかい朝日を浴びながら俺とニオは学院へ向かっていた。 寮の周囲は畑ばかりで特に目立った目印もなく迷うかと思ったが、「あ、その畑カブが植えてあるから右だね」なんてニオの助言により進んでいくと、土を踏み固めた畑道からレンガ造りの街道へ辿り着く。ここまでくればなんとか道は分かる。 「てかよく見てんな」 「え?」 「いやほらさっきのカブとか。俺道分かってなくてよ」 「あぁ昨日寮向かうまでの道歩きながら畑の様子見てたから。あのカブそろそろ収穫だなって思ってて覚えてたんだ」 「へぇ」(……まぁおかげで道に迷わず来れたから良いか) そのまま露店の用意をしている忙しそうな人たちの中、レンガ造りの街道を歩いていく。 その後特に迷うこともなく城門、もとい正門へたどり着いた。 ぞろぞろと赤、青、黄の三色のローブ達──赤は一年生、青は二年生、黄色は三年生だと昨日聞かされた──が正門に吸い込まれていくのが見えた。俺たちもそれに倣い正門を抜けた。 そのまま目の前にある城へ中に入ると、カラフルな学生たちに紛れ数名の深緑のローブを身に纏った──たしかこのローブは教員だったかな──の教員達が立っていた。 「一年生はこの廊下の先、右手の螺旋階段を上がった先の教室だ」 金髪の七三の男が赤のローブ達を見ながら人差し指を右へ向けながら口を開く。 「だってよ」と右手側に伸びる廊下へ視線を向けた瞬間「ニオ・フォック」と声がした。 「え?」とニオが足を止めたのを音で察し、俺も足を止め声がした方を見る。 そこには緑のローブ、左目には眼帯、肩辺りまである金髪の背の高い女が立っていた。 (……誰だ?何故か顔を見たことがある気がする。 教員の格好してるし昨日試験場で見たのか?いやでもそんな感じじゃないな、新聞か何かで見たような……) 「あ、あーおはようございます。えっと……アダムス先生……でしたかね?」 (アダムス家って事は御三家ってことか?だから顔見たことあったのか) 「挨拶など良い。そんなことより昨日の魔術の仕組みはなんなんだ?」 「え?」ニオの顔が強張る。 「魔力を溜める動作もなく余剰な魔力を推進力に変えた様子もないのは、魔力の流れを見ていたら分かる。あんな芸当今まで見たことがないぞ」じっとニオを見ながら女としては低い声でそう言った。 (なんの話だ?昨日の魔術の話みたいだが推進力が必要になるような試験なんてなかったはず) 気になった俺は「あの」と挙手する。 「なんだ?」 「アダムス先生昨日ニオと何かあったんすか?昨日ってことは試験の時の話っすよね?俺先生のこと見てないっすけど」 「君が森の方の試験場に来ていないなら見ていないだろう。私は模擬戦闘──」 「あ、あー!ルーマス急ごう!教室いかないと遅刻しちゃうかもしれないし!」 突然大きな声でニオは焦ったようにそう叫ぶと「僕たちは教室に向かいますね!では!」俺の腕を掴み引っ張る。 「え、あ、ちょ、いたたたっ!」 手首をぐっと握られた俺は痛みに呻きながら廊下を引きずられる。 「い、いてぇってバカ!」 俺は腕を振るい強引にニオの手を振り払う。
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