三章 入学

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「え?あ、ごめん!」慌ててニオは謝った。俺は掴まれていた手首を摩りながら「この馬鹿力め……。ってか大体なに慌ててんだよ?」と尋ねる。 「い、いやほら教室に間に合わない可能性がね?あ、ほらこの螺旋階段みたいだよ」 ニオは取ってつけたようにそう言って背後にある階段を指さし「さぁ僕たちのクラスへ急ごう」と上がり始めた。 「あ、ちょ、待てよニオ!」 俺もそれに続いた。 ── (なんであの先生わざわざ僕に話しかけてくるんだよ……)僕は内心ため息をつきながら階段を上がる。 螺旋階段を上がり終えた先は三つの教室が立ち並んでいた。 僕はクラス札を見ながらⅠ-Cと書かれた教室のスライドドアを探す。 ガラッと音を立てて開けると、少しだけ横長な恐らく二人用の──椅子が二つ並んでいる──机が等間隔で並んでいた。 そんな机の並ぶ正面には黒板が置かれており、そこにはなにか紙が貼られている。 そんな机達にはまばらにクラスメイト達が座っているだけでまだまだ空席が目立っていた。 「……なーにが間に合わなくなる可能性だ、全然余裕じゃねぇか」 べしっと後頭部をはたかれた。 「痛っ!」 「さっきのお返しだ。てかあの紙席順じゃね?」 黒板を指差しながらルーマスは教室へ入り、黒板のある教室の前方へと歩いていく。僕もそれに続き、紙を見てみると確かにそれは席順だった。 自分の名前を確認していると「左端の一番後ろがニオで俺が一つ前だな」とルーマスが貼り出された紙の左端を指差しながら呟いた。 首を傾け自分の席の辺りを見るがまだ隣の席の人は来ていないようだ。 「とりあえず座って待ってるか」 「うん」僕たちは紙に書かれた席へ座った。 ── ルーマスと雑談して時間を潰していると、他のクラスメイト達も教室へと入ってくる。 「少しずつ人集まってきたな」椅子に跨り背もたれに寄りかかり僕の方へ、体を向けていたルーマスがドアの方へ目を向ける。 そうだね、なんて相槌を打っていると席順表を見ていた一人の少女がこちらに歩いてくるのが見えた。 長い黒髪を緩く三つ編みにしたそばかすのある眼鏡を掛けた小柄な少女は、窓側に座る僕の右斜め前でぴたりと止まると「ねぇ、隣良い?」ルーマスの方を見て、その少女は微笑んだ。 「ん、どうぞどうぞ」 僕に軽く会釈しながら彼女はルーマスの隣に座る。 会話を禁じられたというわけでもないのだが、彼女が近くに座った事によりなんとなく僕達は無言になる。 (こういう時黙っちゃうのなんでなんだろう?) 「あ、ねえねえ」と彼女が体を斜めにして僕らの方を向く。 「私ウィン・ドゥ・シャールって言うの。君達は?」 「俺キャンド・ルーマス」 「僕はニオ・フォックだよ」 「ルーマス君とフォック君か。これからよろしくね」 「よろしく」 「よろしくね」 そうして彼女、シャールさんの自己紹介を口火にシャールさんを含めた三人での雑談が始まる。 彼女は寮生ではなく、家から通学しているとの事だった。 「寮生って事は二人の家って遠いの?」 「俺の家は海沿いの──」 「おはよう」と声がした。 僕達三人の目が前に向く。 そこには金髪の、昨日火の維持試験を担当していた教員が黒板前にある教卓に立っていた。 二人が体を前に戻す様子を視線の端に見ながら僕も視線をそちらへ向ける。 僕達を含めさっきまで騒がしかった教室が静かになる。 「さて時間だが、揃って──」教員は目を細めぐるりと教室を見渡し「──いないな」とふうと息を吐く。 教員は僕達を見ると「ニオ・フォック」と口を開く。 唐突に僕の名を呼ばれた。 「は、はい……?」 「隣、来ていないのか?」 「は、はい。まだ来ていないと思います」 教員の言う通り僕の隣の席は誰も座っていない。 入学初日から遅刻とはなかなかの豪胆さだな、なんて思ってしまう。 まぁ体調不良とかのパターンも── ガラリ。 しんとしていた教室に扉の開く音はやたらと大きく響いた。 反射的にそちらを見ると、見覚えのある顔の少女が立っていた。 長いウルフカットの、大きな赤い魔石の付いた杖を持った少女。 (魔力出力試験の時の……) そんな少女は僕を含めた多数の視線を気にもせず、三白眼を細め教室をぐるりと見渡して、唯一の空いている席である僕の隣へと歩いてくる。 「遅刻だぞ」教員が咎めるように言うが、少女はそちらを見ることもなく僕の隣の席に座り欠伸をする。 教員はため息を吐き、「……次からは欠席扱いにする。気を付けるように」と言った。 「では改めて。私の名前はパキン・ウィーナ。私がこのクラスの担任だ」教員改めウィーナ先生は教卓に手をつきながら、「遅刻などは厳しく対処していくつもりなのでそのつもりで」と僕の隣で机に頬杖をついている少女の方へ視線を向けた。 「では全員外に移動だ。初めの授業では自己紹介と君達の魔術の腕を改めて見せてもらう」 ── そうして、僕達は昨日試験場だったグラウンドへと来ていた。 グラウンドの左側に集まっている僕達のクラス以外にも同じく赤いローブの生徒が集まっていて、どうやらAとBクラスもいるようだった。
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