三章 入学

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「魔術のコントロールでも最大出力の魔術でもいい。自分が一番得意だと思う魔術をやってみてくれ」ウィーナ先生はそう言って懐から小さな紙──僕が試験の際風船を呼び出すために渡された紙と同じものに見える──を取り出す。 「まずはそうだな、手本になってもらおうか──エスター・ドス・フエゴ」 視線を送る先にいたのは先ほど遅刻してきた少女だった。 「あぁ?」 「フエゴは君以外いないだろう?前に」 不服そうな少女──フエゴさんは睨みつけるようにウィーナ先生へ視線をぶつけるが眉一つ動かさない。 ちっと舌打ちをすると彼女は気怠そうに前へ出るとウィーナ先生の前へ立つ。 「君はなにが得意だ?」 「何もねぇよ」 「では勝手にこちらが指定させてもらおう」 手に持っていた紙を一枚ウィーナ先生が空中に散らすと、風船が現れた。 ふわふわと空中に浮いているそれは、僕が試験の際見たものと同一なようだが、大きさと見た目が違う。 縦横三メートルはあり、特殊な紋様が書かれていた。 それを周囲に何もない空中でぴたりと止めた。 「耐魔術コーティングされた風船だ。これを割ってみろ」 「それだけか?」 「あぁ」 彼女はすっと赤い石の付いた杖を風船へと向けた。 「……あれ、魔石か?」 「あんなサイズの魔石はじめてみたぞ」 「……でもなんで魔石なんて杖に?」 背後から困惑したクラスメイトの声が聞こえてきた。 魔石。 魔力を込めることで、様々な現象が起きる石。 自分の属性とは異なる属性の魔石を使うことで使用したりすることができ、日常生活によく利用されている物。 だが自前の属性と比べ、魔力効率が悪いという欠点がある。 純度等によって変動はするが、その辺の生活に使用されるものであれば仮に百の魔力を込めても精々十から二十程度しか出力されない。 それに加え大量の魔力を注ぐと石が壊れてしまうという欠点もある。 (あのサイズだし壊れにくいとかあるのかもしれないけど、それでも、魔石を通さない方が効率が段違いな筈) 普通に生活に利用することであれば十分ではあるのだが、威力を求めたりする状況での魔石は適切とは言い難い。 少なくとも今の場面で使うのはあまりに──。 そう思っていた僕の視線の先で、杖の先端が真っ赤に輝いた。 杖の先端から噴き出た炎の帯は宙へ浮く三メートルはある風船を軽々と飲み込み、跡形もなく消し飛ばした。火が消えると同時にパラパラと燃えカスだけが、グラウンドへと落ちてくる。 「え……?」思わず声が漏れた。 有り得ない、と思ってしまった。 同じような芸当なら僕にだって出来る。 だがそれが魔石を通した、となれば話が違う。 杖の魔石が耐えられる魔力量だとは思えない、なんてのも頭をよぎったが一番有り得ないと思ったのは彼女の魔力量だった。 僕が彼女の杖を持って同じことをやろうとすれば一発でガス欠──、いや同規模の炎を出せないなんて事も全然あり得る。 そんな本来の数倍の魔力を消費しているはずの彼女は涼しい顔をして風船へ向けていた杖を持ち直す。 (……特に消耗している様子もない。あの時の試験で水晶玉割っていたのは伊達じゃないってことか) なんて思っているとやはり彼女のそれは普通ではなかったようで、僕の周囲のCクラスだけでなく、たまたま見ていたのであろうAやBクラスの人間達もざわついていた。 「ほらよ、満足したか?」 彼女は、ハッと鼻を鳴らし「オレに時間かけすぎも良くねぇだろ、さっさと次呼べよ」啞然とした顔のウィーナ先生にそう言ってこちらへと向かってくる。 そのままこちらに戻ってくるのかと思えば、そのまま脇を通り抜けグラウンドの入り口の方へ歩いていく。 そんな彼女を視線で見送っていると「お、おい待て、どこ行くんだ」慌ててウィーナ先生はグラウンドから出ようとする彼女を止めようとする。 が「あんたの言う通り風船割ってやったんだ、オレのやることは終わっただろ?文句はなしだ」振り向くこともなく彼女は言い放ちそのままグラウンドから離れていった。 彼女の不遜な態度、目の前で起きたバカげた規模の魔術、いずれかの理由で誰もが言葉の出ない状況の中、「……次──」と疲れた様子のウィーナ先生が次の生徒を呼ぶ声が聞こえた。 ── そんな初授業から三時間ほど経った。 ニオ達は現在教室の中で、魔法陣学の授業を受けていた。 「魔法陣の成り立ちはこの形が起源とされていてね」と猫背の男、モキー・ロアは黒板に自ら書いた円に五芒星の書かれた魔法陣を指差す。 「これから様々な創意工夫が──」 授業の終わりとお昼の時間を告げる鐘の音が響く。 「っと、とりあえずは今日はここまで。今回は簡単な歴史の話だけだったから次回からはもう少し具体的な内容をするよ」 軽く会釈したモキーは教卓に置いていた授業用の資料を手に取りそのまま教室を出ていった。 モキーの姿がなくなった途端教室の中が騒がしくなる。 「やっと昼か、疲れたー」なんて声を出しながら伸びをするクラスメイト達と同じくニオ達も席を立ち体を伸ばしていた。
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