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そんなニオの隣にはエスターの姿はない。
初めの授業の途中でグラウンドから出ていった彼女の姿はその後誰も見ていなかった。
「腹減ったなー」
「私もお腹空いた」
腹を撫でるキャンドとウィンにニオも同意しながら「学食食べに行こうよ」と二人に告げる。
「そうだな」
「行こ行こ」
と三人はCクラスの教室から廊下へと出る。
AやBクラスの生徒達も出てきていて、一年生達でごった返している廊下を三人は歩いていく。
学食のある一階の方へ階段を降りながら、キャンドは口を開く。
「……にしてもとんでもなかったな。フエゴ家のご令嬢は」
「魔石使用してあの威力はとんでもないよ。私じゃ無理かも」
「いやいや威力だけじゃなくて凄いのはあの性格よ。ありゃかなり強烈だ」
「……僕は今日からその強烈な彼女の隣なんだけど」
「面倒事なんないと良いな」ニヤニヤと笑うキャンドを見て、ニオはため息をつく。
「まぁそうは言ってもあのご令嬢は真面目に授業受ける感じもないしそう気にしなくても良いとは思うけどな」
「まぁそれもそうかも。あの後見てないし」
「確かにあの後見てないねー」
なんてエスターの話をしている間に、目的の場所へと三人はたどり着いた。
両開きの木の扉を開き、入ると大きなホールがあった。
元はグレートホールとして使われていたそのホールには、数十メートルはあるかという長いテーブルとそれに等間隔に椅子が置かれている。
そして三人のいる入り口から丁度見て真向かいの位置に大きなキッチン──フードコートのカウンターのような物もある──が備え付けられていた。
丁度昼食時ということもあり、それなりに席に座っている生徒達も多く、混雑している中、「……これどう頼むか分かる人いる?」ニオが小さく呟く。
「え、俺は知らん」
「私も知らないな……」
「と、とりあえず席を取りに──」
そんな迷っていた三人に、背後から「なにか困ってる?」と入り口から入って来た若い教員が声をかけてくる。
「はい。注文とか席とかなにか決め事とかあったりします?」
「あぁ、それならあそこのカウンターで注文すればいいよ。席は特に指定とかないから好きに座って構わないよ」
「ありがとうございます」と説明してくれた教員へ頭を下げ、三人はカウンターへと向かった。
カウンターに立っていた女性に銅貨を出し、一番値段の安い日替わりランチを三人が頼む。
その後席に座り、ランチを待ちながら雑談していると寮の時のように、目の前に光る陣が展開されランチが現れる。
「えぇっ?」と驚いた様子のフィンとは対照的に、夕食と朝食で同じような光景を見たニオ達はすっと食事に手を付ける。
「……なんで二人共平気な顔してるの?」
「いやまぁ、驚いたってのは昨日やったし」
「昨日の夜と今日の朝も見たからね、僕達」
「えーじゃあなんか驚いた私バカみたいじゃない?」
「まぁ初見なら普通にビビるよな」
なんて言いながら三人は思い思いにランチを口に運んでいく。
パンやスープに舌鼓を打ちながら、三人は談笑しながら食事を進める。
それから数分後のニオがスプーンでスープを掬い口に運んだ時だった。
入り口の扉が開き、入り口の方へ座っていた生徒達がにわかにざわつく。
「ん?」とキャンドが視線をそちらへ向ける。
ニオとフィンも少し遅れてそれに倣う。
そこには背筋を伸ばした一人の少女が歩いているのが目に映った。
「あぁあれが新しく入ってきたパラセル家の──」
「入学試験も満点だったらしいぞ。それに──」
なんて小声で耳打ちしている二年生や三年生達からの視線をものともせずパトルはカウンターまで歩くと、ランチを頼んでいる。
そんなパトルを見てニオは昨日の再会の出来事が頭をよぎり、視線を慌てて自分のランチへ戻した。
残りのスープやパンを口に手早く口に運び皿を空にしようとするニオに「なに慌ててんだ?」とキャンドは問う。
「あ、あぁいや別に何もないよ」
「いや何もないってことはないだろ。いきなり慌ててどうし──」
「この席空いてる?」
そんな声がして、ニオの肩がびくりと震える。
ニオは声がした向かいの席へ視線を向けるとそこにはパトルが立っていた。
「……空いてるよ」
「良かった、じゃあ失礼して──」
パトルは左隣に座っていたフィンに「隣失礼するね」と会釈しニオの向かいに座る。
「ふふ、こうして向かい合ってご飯食べるなんて久しぶりだね」微笑むパトルにニオは苦笑いをした。
周囲からの視線が痛いほどに突き刺さっていたからだ。
「なんだあいつ?」
「Cクラスのあいつ、なんか繋がりあんのか?」
なんて小さな声がそこかしこから聞こえ、パトルを見ていた視線がいくつかニオの方にも向けられる。
速やかにその視線達から逃れたいニオはまだこぶし大程のサイズはあるパンを強引に口に押し込み、スープ皿を手に取り直接口をつけ流し込む。
ごくんと飲み込んだニオは口を拭いながら、「……っ、じゃ、じゃあ食べ終わったしまた──」と立ち上がろうとする。
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