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「まだお昼休みはあるんだしそんなに急がないでもいいじゃん。
……それとも私と同席、嫌だった?」と悲しげな顔をするパトル。
「い、いや別にそういうわけじゃ──」
パトルのテーブルが光り、ランチが現れる。
パトルはフォークを手に取りながら「それなら私が食べ終わるまでいてよ」とランチに手をつけ始めた。
「いっぱい話したいことあるんだから」
──
「──ってことがあってさ」パトルはフォークにミートソースパスタを巻きながら楽しそうに笑う。村と離れた後の、都での生活の話を聞かされていた。
「……そんなこともあったんだね」
相変わらず周囲からの視線は痛い。
(な、なんかルーマス、適当にここから離れられる話題──っていないじゃん!?)
周囲をちらりと見るといつの間にかルーマスとシャールさんはいなくなっていた。
助け舟を出してくれる人はいなくなっていたことに今更ながら気がつく。
どんどんと状況は悪くなっていく。
時間が経つにつれ、徐々にパトルに集中していた視線が幾つか僕の方へ向けられ始めている。
こいつは誰なんだ、とでも思われているのだろうか?
視線が刺さりまくり完全に針の筵だった。
今すぐにでもこの場所から出ていきたい。
なんて考えていたその時、「おや、パトルじゃないか」と声がした。
声がした方を見ると、青いローブを着た緑の長髪の男がそこには立っていた。ローブの胸元には胸には金色のアルファベットが見える。
どうやら二年のAクラスの人らしい。
パトルはそちらを見て小さく息を吐き真顔になると「あぁ、どうも。エオリアさん」と返す。
どうやら知り合いの様だ。
「そんな他人行儀じゃなく、私のことは気軽にアリクと呼んでくれて構わないと以前言ったろう?」
「いえ私達は他人なので」
「相変わらずクールだなぁパトルは」
どこか冷めたように言うパトルとエオリアという男の、どこかテンションの嚙み合わない会話を聞いていると、「そこの。席を譲ってもらえるか?」エオリアさんは僕の方を見ながらそう言った。
思わぬところで助け舟が出た事に驚きながらも「え、あぁわかりました!すぐ退きま──」椅子を素早く引き立ち上がろうと腰を上げようとした瞬間、「エオリアさんとは話すことはありません。ニオ、動かないでそのままいて」
パトルの大きな青色の瞳が動こうとした僕の目を見る。
目が合った瞬間、僕の体が独りでに硬直した。
威圧的な言葉を使われたわけでもない、ただパトルは僕の目を見ながら「動かないでそのままいて」と言っただけ。
それなのに体は動かなかった。
「エオリアさん、その席は彼が座っていた席です。席の場所は上級生下級生関係なく、座っていた人の物です」
「そ、それはそうだが、そこのが退いてくれると言うなら別に──」
瞬間、チリチリと音がする。
「っ!?」慌ててのけぞるエオリアさんの前髪は焦げていて、独特の悪臭が鼻を突く。
そんなエオリアさんの眼前には掌サイズの火の玉が浮いており、その火による物のようだった。
「えぇ……」
「あの子やば……」
なんて困惑混じりの小さな声が周りから聞こえてきた。
「エオリアさん、これ以上絡んでくるなら、次は前髪だけじゃ済ませませんよ」
パトルは火の玉を見ながら低い声で言う。
パトルが視線をパスタの方へ戻すと同時に火の玉はふっと音もなく消えた。
「……っ」ぎりっと歯を食いしばる音と共にエオリアさんは僕を睨みつけると、そのままホールから勢い良く出ていった。
(……うん、完全に僕まで恨まれてるなこれ。何もしてないのに)
「あ、あの、えっとパトルさ、その先輩に──」
「さっきのとは何もないから。ただ以前パーティで会って以来私に絡んでくるだけでなにも関係ないからね?」
「いや別にそこは気にしてなくてね?」
別に僕は彼女の交友関係に口出しする立場でもない。
貴族のお嬢様ともなれば色んな人物との繋がりが出来て当然だと思う。
僕が気になったのは明らかに先輩に対する態度ではない所だった。
「あんなに敵意むき出しだとほら色々さ……」
「別にいいよ全然。私負けないし」
パトルはそう言い放ち、器に残っていた最後のパスタを口に入れ、ごくりと嚥下する。
「ご馳走様。というかそんなことよりも、ニオの事教えてよ」
「え?」
「私がいなくなった後は村で何してたのかなって思って」
それに返事するより先にゴーンと鐘の音が鳴った。
それは昼休みの終わりの合図で、すでに食事を終えていたにもかかわらず野次馬をしていた周囲の生徒達もバタバタと慌てて立ち上がり始めた。
「……あーえっと、その話はまた今度しよう。もう昼休み終わるしさ」
「もうこんな時間なんだ……。ニオと話してるとあっという間だなぁ」
パトルははぁとため息をつき、「次も一緒に食べようね」と言って立ち上がる。
「あ、あぁうん、そうだね……」
「じゃあまたね」にこやかに言ってホールから出ていくパトルを見ながら、(……うん、学食は諦めよう)と僕は自らへ向けられている視線を感じながら心に誓った。
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