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が、
私が、そう思っていると、
「…いや、そんなことはない…」
と、即座に長井さんの言葉を、長谷川センセイが、否定した…
「…そんなことはない…どうしてですか?…」
長井さんが、むきになって、長谷川センセイに聞く…
「…VIPの病室は、決まっている…」
長谷川センセイが、断言する…
「…どこの病院でも、そう…同じ…ホテルと同じで、病室にも、ランクがある…だから、諏訪野さんが、隠れているとしたら、ホテルで、言えば、スイートルーム…最上級の部屋だ…だから、そこを探せば、諏訪野さんが、見つかると、思う…」
長谷川センセイが、説明する…
私は、それを、聞いて、
…なるほど…
と、思った…
たしかに、その通りだろう…
仮に、諏訪野伸明が、この病院に入院していると、すれば、最上級の部屋…
ホテルでいえば、スイートルームに匹敵する部屋に違いない…
当たり前だ…
「…でも…」
と、長谷川センセイが、渋った表情になった…
…でも、なんだろ?…
私が、思っていると、先に、長井さんが、
「…セキュリティーでしょ?…」
と、笑って言った…
「…セキュリティー?…」
私が、声を上げると、
「…その通り…」
と、長谷川センセイが、肩を落とした…
「…あそこは、セキュリティーが、万全だ…警備員も常駐している…だから、いくら、このボクが、五井記念病院の勤務医だからと、いって、入れるかどうかは、わからない…」
長谷川センセイが、自信なさそうに、呟く…
言われて、みれば、その通り…
納得する…
この病院の最上級の病室が、誰でも、気軽に入れるものでは、困る…
最上級の部屋だから、この病院の病室の中で、一番、高額…
一番、部屋の代金が、高い…
それなのに、まるで、無料で、見学できるように、誰もが、簡単に部屋にやって来られては、困る…
だから、警備員を常駐させ、誰もが、簡単に、病室にやって来られないように、しているのだろう…
私は、思った…
私は、考えた…
そして、そんなことを、考えていると、
「…しかし、とにかく、やってみる…ほかならぬ、寿さんの頼みだ…なんとか、やってみる…」
長谷川センセイが、宣言する…
「…ありがとうございます…」
私は、頭を下げて、礼を言った…
そして、頭を上げると、長井さんが、ニヤニヤしていた…
まるで、長谷川センセイをからかうように、ニヤニヤと、笑っていた…
その顔は、決して、言葉には、しないが、
…この長谷川センセイ…年下の美人に頼まれたから、無理して、安請け合いしちゃって…
と、でも、言っている感じだった…
いや、
事実、内心、そう、思っているに、違いなかった…
そして、私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイが、突然、背後の長井さんを、振り返って、
「…大人をからかうんじゃない!…」
と、苦笑いを浮かべながら、一喝した…
私が、長井さんを見ていることに、私の視線で、気付いたのだろう…
が、
叱られた長井さんは、悪びれることなく、
「…ハイ…」
と、ニヤニヤしたままだった…
私は、それを、見て、ピンときた…
もしかしたら?
もしかしたら、この二人、まったくの他人では、ないのかも?
ピンときた…
そうでなければ、研修生の立場で、勤務医の長谷川センセイを笑うことなど、できることでは、ない…
だから、ピンと、来た…
そして、それを確かめるべく、
「…お二人は、もしかして、お知り合い?…」
と、聞いた…
強く、聞くのは、おかしい…
だから、さりげなく、聞いた…
すると、
「…気付きましたか?…」
と、長谷川センセイが、照れたように、言う…
「…姪です…」
「…姪?…」
「…姉の娘なんです…」
長谷川センセイが、告白する…
私は、それを、聞いて、思わず、まじまじと、二人を見比べた…
どこか、似ているところが、あるか、どうか、見たのだ…
が、
しかしながら、共通点は、まるで、なかった…
叔父と姪といっても、顔がまるで、似ても、似つかない…
長谷川センセイは、長身のイケメン…
そして、失礼ながら、長井さんは、まったくの平凡な顔立ちだった…
身長も、大きくもなく、小さくもない…
平均レベル…
160㎝ぐらいだろう…
だから、二人が、叔父と姪といっても、共通点がまるでなかった…
似ているところが、まるでなかった…
が、
しかしながら、そういうものかも、しれない…
血が繋がった実の親子や兄弟姉妹でも、なんら、似ても似つかない場合も、多い…
まして、それが、叔父と、姪では、もっと、血が薄くなるから、余計に、似ていないだろう…
私は、そう、思った…
そして、そう思っていると、
「…どうして、気付いたんですか?…」
と、今度は、長井さんが、私に聞いた…
だから、私は、笑いながら、
「…距離感ですよ…」
と、答えた…
「…距離感?…」
「…ほら、男でも女でも、例えば、夫婦と、兄弟姉妹は、違うでしょ? …同じぐらいの年齢の男と女が、いっしょにいても、どこか、違う…対応が違う…だから、夫婦か、兄弟か、わかる…」
私が、説明すると、
「…たしかに…」
と、叔父と姪が同時に、呟いた…
「…それは、違う…まるで、違う…」
長谷川センセイが、同意する…
長谷川センセイが、激しく、同意した…
「…それに…」
「…それに、なんですか?…」
「…いやしくも、研修中の看護師の方が、勤務医のセンセイをからかうように、笑うことは、普通できないでしょ?…」
私が、笑って言うと、二人とも、顔を見合わせて、照れた…
同時に、閃いた…
さっき、この長井さんが、言ったこと…
つまり、長井さんが、研修中の身にも、かかわらず、長く休憩を取っていた…
それは、前回、私が、ここを訪れたとき、この長井さんと、いっしょにいた、研修中の看護師の方が、仕事がキツいから、辞めたので、私も簡単に辞められたら、困るから、長い休憩時間をもらったと、言っていた…
が、
それが、本当か否か、悩んだ…
本当か、否か、考えた…
叔父が、勤務医の長谷川センセイなら、多少の融通は、利くからだ…
普通は、無理…
できないかも、しれないが、叔父が、勤務していて、彼女が、叔父の近くで、看護師をやっていれば、かなり、疲れているようならば、叔父である長谷川センセイが、優先的に休憩させるようなことは、できるだろう…
そう、思った…
が、
さすがに、それを、口にすることは、できない…
さすがに、それを、聞くことは、できない…
だから、諦めた…
聞くのは、諦めた…
私が、そう思っていると、
「…とにかく、やってみましょう…」
と、長谷川センセイが、言った…
「…待っていても、仕方がない…」
「…」
「…諏訪野さんを探してみましょう…」
「…ハイ…よろしくお願いします…」
私は、言った…
そして、私が、頭を下げると、またも、長井さんが、ニヤニヤして、叔父の長谷川センセイを見ていた…
「…それでは、診察を始めます…」
いきなり、長谷川センセイが、告げる…
私は、一瞬、驚いたが、当たり前のことだった…
ここは、病院…
五井記念病院…
そして、長谷川センセイは、外科の勤務医…
私は、患者だ…
私は、ホントは、諏訪野伸明の居所を、探すために、この五井記念病院にやって来た…
が、
名目は、検査…
あくまで、自分のカラダの検査=診察だ…
だから、診察せざるを得なかった…
当たり前だった…
だから、
「…わかりました…よろしくお願いします…」
と、言って、頭を下げた…
診察が終わり、診察室を出ようとした…
「…それでは、寿さん…ちょっと、ボクなりに、頑張ってみます…」
と、長谷川センセイが、別れ際に、私に声をかけた…
私は、その声に、応じて、またも、
「…よろしくお願いします…」
と、頭を下げた…
まるで、バカの一つ覚えだが、それ以外に、適切な言葉が、見つからなかった…
だから、バカの一つ覚えだが、
「…よろしくお願いします…」
と、繰り返さざるを得なかった…
そういうことだ…
そして、その言葉を最後に、診察室を出た…
診察室を出ると、ホッとした…
実に、ホッとした…
とりあえず、やるべきことは、やった…
自分にできることは、やった…
そういう気分だった…
これは、例えて、みれば、高校受験や大学受験と同じかも、しれない…
テストが終わり、受験した学校を出る…
そのときの気持ちと、同じだ…
そして、さらにいえば、
…手ごたえは、あった!…
と、言いたい…
テストでも、恋愛でも、普通の人間ならば、反応は、わかるものだ…
出来がいいか、悪いかは、わかるものだ…
受験を例に取れば、受かったか、受からなかったかは、大抵、自分でも、わかるものだ…
恋愛も、そう…
受験と同じだ…
自分が、好きな男や女に、
「…ボクと付き合ってください…」
「…アタシと付き合ってください…」
と、頼んで、相手が、ビックリして、当惑していれば、それは、もうダメ!
大抵は、無理だと思えば、間違いが、ない(苦笑)…
それと、同じだ…
だから、
…期待していい…
と、思った…
…なんとかなる…
と、思った…
そのときは、思った…
<続く>
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