長谷川センセイ 9

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が、  私が、そう思っていると、  「…いや、そんなことはない…」  と、即座に長井さんの言葉を、長谷川センセイが、否定した…  「…そんなことはない…どうしてですか?…」  長井さんが、むきになって、長谷川センセイに聞く…  「…VIPの病室は、決まっている…」  長谷川センセイが、断言する…  「…どこの病院でも、そう…同じ…ホテルと同じで、病室にも、ランクがある…だから、諏訪野さんが、隠れているとしたら、ホテルで、言えば、スイートルーム…最上級の部屋だ…だから、そこを探せば、諏訪野さんが、見つかると、思う…」  長谷川センセイが、説明する…  私は、それを、聞いて、  …なるほど…  と、思った…  たしかに、その通りだろう…  仮に、諏訪野伸明が、この病院に入院していると、すれば、最上級の部屋…  ホテルでいえば、スイートルームに匹敵する部屋に違いない…  当たり前だ…  「…でも…」  と、長谷川センセイが、渋った表情になった…  …でも、なんだろ?…  私が、思っていると、先に、長井さんが、  「…セキュリティーでしょ?…」  と、笑って言った…  「…セキュリティー?…」  私が、声を上げると、  「…その通り…」  と、長谷川センセイが、肩を落とした…  「…あそこは、セキュリティーが、万全だ…警備員も常駐している…だから、いくら、このボクが、五井記念病院の勤務医だからと、いって、入れるかどうかは、わからない…」  長谷川センセイが、自信なさそうに、呟く…  言われて、みれば、その通り…  納得する…  この病院の最上級の病室が、誰でも、気軽に入れるものでは、困る…  最上級の部屋だから、この病院の病室の中で、一番、高額…  一番、部屋の代金が、高い…  それなのに、まるで、無料で、見学できるように、誰もが、簡単に部屋にやって来られては、困る…  だから、警備員を常駐させ、誰もが、簡単に、病室にやって来られないように、しているのだろう…  私は、思った…  私は、考えた…  そして、そんなことを、考えていると、  「…しかし、とにかく、やってみる…ほかならぬ、寿さんの頼みだ…なんとか、やってみる…」  長谷川センセイが、宣言する…  「…ありがとうございます…」  私は、頭を下げて、礼を言った…  そして、頭を上げると、長井さんが、ニヤニヤしていた…  まるで、長谷川センセイをからかうように、ニヤニヤと、笑っていた…  その顔は、決して、言葉には、しないが、  …この長谷川センセイ…年下の美人に頼まれたから、無理して、安請け合いしちゃって…  と、でも、言っている感じだった…  いや、  事実、内心、そう、思っているに、違いなかった…  そして、私が、そんなことを、考えていると、長谷川センセイが、突然、背後の長井さんを、振り返って、  「…大人をからかうんじゃない!…」  と、苦笑いを浮かべながら、一喝した…  私が、長井さんを見ていることに、私の視線で、気付いたのだろう…  が、  叱られた長井さんは、悪びれることなく、  「…ハイ…」  と、ニヤニヤしたままだった…  私は、それを、見て、ピンときた…  もしかしたら?  もしかしたら、この二人、まったくの他人では、ないのかも?  ピンときた…  そうでなければ、研修生の立場で、勤務医の長谷川センセイを笑うことなど、できることでは、ない…  だから、ピンと、来た…  そして、それを確かめるべく、  「…お二人は、もしかして、お知り合い?…」  と、聞いた…  強く、聞くのは、おかしい…  だから、さりげなく、聞いた…  すると、  「…気付きましたか?…」  と、長谷川センセイが、照れたように、言う…  「…姪です…」  「…姪?…」  「…姉の娘なんです…」  長谷川センセイが、告白する…  私は、それを、聞いて、思わず、まじまじと、二人を見比べた…  どこか、似ているところが、あるか、どうか、見たのだ…  が、  しかしながら、共通点は、まるで、なかった…  叔父と姪といっても、顔がまるで、似ても、似つかない…  長谷川センセイは、長身のイケメン…  そして、失礼ながら、長井さんは、まったくの平凡な顔立ちだった…  身長も、大きくもなく、小さくもない…  平均レベル…  160㎝ぐらいだろう…  だから、二人が、叔父と姪といっても、共通点がまるでなかった…  似ているところが、まるでなかった…  が、  しかしながら、そういうものかも、しれない…  血が繋がった実の親子や兄弟姉妹でも、なんら、似ても似つかない場合も、多い…  まして、それが、叔父と、姪では、もっと、血が薄くなるから、余計に、似ていないだろう…  私は、そう、思った…  そして、そう思っていると、  「…どうして、気付いたんですか?…」  と、今度は、長井さんが、私に聞いた…  だから、私は、笑いながら、  「…距離感ですよ…」  と、答えた…  「…距離感?…」  「…ほら、男でも女でも、例えば、夫婦と、兄弟姉妹は、違うでしょ? …同じぐらいの年齢の男と女が、いっしょにいても、どこか、違う…対応が違う…だから、夫婦か、兄弟か、わかる…」  私が、説明すると、  「…たしかに…」  と、叔父と姪が同時に、呟いた…  「…それは、違う…まるで、違う…」  長谷川センセイが、同意する…  長谷川センセイが、激しく、同意した…  「…それに…」  「…それに、なんですか?…」  「…いやしくも、研修中の看護師の方が、勤務医のセンセイをからかうように、笑うことは、普通できないでしょ?…」  私が、笑って言うと、二人とも、顔を見合わせて、照れた…  同時に、閃いた…  さっき、この長井さんが、言ったこと…  つまり、長井さんが、研修中の身にも、かかわらず、長く休憩を取っていた…  それは、前回、私が、ここを訪れたとき、この長井さんと、いっしょにいた、研修中の看護師の方が、仕事がキツいから、辞めたので、私も簡単に辞められたら、困るから、長い休憩時間をもらったと、言っていた…  が、  それが、本当か否か、悩んだ…  本当か、否か、考えた…  叔父が、勤務医の長谷川センセイなら、多少の融通は、利くからだ…  普通は、無理…  できないかも、しれないが、叔父が、勤務していて、彼女が、叔父の近くで、看護師をやっていれば、かなり、疲れているようならば、叔父である長谷川センセイが、優先的に休憩させるようなことは、できるだろう…  そう、思った…  が、  さすがに、それを、口にすることは、できない…  さすがに、それを、聞くことは、できない…  だから、諦めた…  聞くのは、諦めた…  私が、そう思っていると、  「…とにかく、やってみましょう…」  と、長谷川センセイが、言った…  「…待っていても、仕方がない…」  「…」  「…諏訪野さんを探してみましょう…」  「…ハイ…よろしくお願いします…」  私は、言った…  そして、私が、頭を下げると、またも、長井さんが、ニヤニヤして、叔父の長谷川センセイを見ていた…  「…それでは、診察を始めます…」  いきなり、長谷川センセイが、告げる…  私は、一瞬、驚いたが、当たり前のことだった…  ここは、病院…  五井記念病院…  そして、長谷川センセイは、外科の勤務医…  私は、患者だ…  私は、ホントは、諏訪野伸明の居所を、探すために、この五井記念病院にやって来た…  が、  名目は、検査…  あくまで、自分のカラダの検査=診察だ…  だから、診察せざるを得なかった…  当たり前だった…  だから、  「…わかりました…よろしくお願いします…」  と、言って、頭を下げた…  診察が終わり、診察室を出ようとした…  「…それでは、寿さん…ちょっと、ボクなりに、頑張ってみます…」  と、長谷川センセイが、別れ際に、私に声をかけた…  私は、その声に、応じて、またも、  「…よろしくお願いします…」  と、頭を下げた…  まるで、バカの一つ覚えだが、それ以外に、適切な言葉が、見つからなかった…  だから、バカの一つ覚えだが、  「…よろしくお願いします…」  と、繰り返さざるを得なかった…  そういうことだ…  そして、その言葉を最後に、診察室を出た…  診察室を出ると、ホッとした…  実に、ホッとした…  とりあえず、やるべきことは、やった…  自分にできることは、やった…  そういう気分だった…  これは、例えて、みれば、高校受験や大学受験と同じかも、しれない…  テストが終わり、受験した学校を出る…  そのときの気持ちと、同じだ…  そして、さらにいえば、  …手ごたえは、あった!…  と、言いたい…  テストでも、恋愛でも、普通の人間ならば、反応は、わかるものだ…  出来がいいか、悪いかは、わかるものだ…  受験を例に取れば、受かったか、受からなかったかは、大抵、自分でも、わかるものだ…  恋愛も、そう…  受験と同じだ…  自分が、好きな男や女に、  「…ボクと付き合ってください…」  「…アタシと付き合ってください…」  と、頼んで、相手が、ビックリして、当惑していれば、それは、もうダメ!  大抵は、無理だと思えば、間違いが、ない(苦笑)…  それと、同じだ…  だから、  …期待していい…  と、思った…  …なんとかなる…  と、思った…  そのときは、思った…                <続く>
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