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翌日の夜やって来た瀬戸さんは「雪が積もっていなくて良かった」と言いながら家に上がった。今シーズンは飯野町の冬にしては積雪量が少ない。いつものように卓袱台の前に座った瀬戸さんにお茶を出す。いつものように「ありがとうございます」と言った彼は一口飲んだ。
「最近、お誘い断ってばっかりですみませんでした」
「いや全然。忙しいのは仕方ないです。僕も断る時は断るし」
そんなこと言って、断ったことなんかないくせに。瀬戸さんはどこまでも「良い人」だ。どんな過去があって俺に出会うまでの瀬戸さんがどんなに駄目な人間だったとしても、俺にとっては優等生だ。だからこの人にわがままを言いたくないと思っていた。でも多分、恋愛って、というか人と関わるのって、そういうことじゃないんだろうな。
「じつは、ちょっと引っ掛かってることがあって」と俺は切り出した。実際は「ちょっと」どころではないのだが。瀬戸さんは「はい」と相槌を打った。
「この前、おじいちゃんのお見舞いの後、瀬戸さんの車がコンビニに止まってるの見て」
瀬戸さんが「あー」と呟いて天井を見た。俺は続ける。
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