テレポーテーションは実在した!? 軽四輪車ホンダ「N-VAN」

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 俺がこの歳で身内の介護をすることに職場の誰もが驚いているようだったが、俺にとっては自然な流れだった。ごくありふれたことではないが、ありえないことでもない。覚悟はしていた。  3月いっぱいで、高校を卒業してから務めてきた市の職員を辞める。引き継ぎもあるからしばらくは残業だ。年休も使い切れそうにない。その日も俺は上司が退勤するのを見送り、静かになった事務室でパソコンに向かっていた。 「お疲れ様です」と声を掛けてきたのは非常勤職員の瀬戸さんだった。俺より歳上で、背は俺より低い。急な呼び出しや遅い時間の勤務を頼まれることも多いが、嫌な顔ひとつせずにこなしてくれる。誰に対しても笑顔を見せて愛想が良く、気配りもできる。思い返してみれば公民館に異動になってからは彼に何かと頼りっぱなしだった。俺が「お疲れ様です」と返すと瀬戸さんは入館者数をメモした紙を渡してきた。小さなチョコレート菓子もつけて。 「ガンダムのクリアファイル欲しくてファミマでいっぱい買ったんです。どうぞ」と笑う瀬戸さん。俺は「ありがとうございます。頂きます」と小さく頭を下げて受け取った。 「箭内さん年休使い切れるんですか」 「あー、引き継ぎあるのでちょっと無理っぽいです」 「年休は労働者の権利ですよ」
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