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瀬戸さんはそれなりに楽しんでくれたようで、解説の音声が鳴るボタンは全部押していたしピンカラ石もしっかり叩いていた。3Dシアターが上映されるということで、シアタールームに入ろうとした時、展示スペースにいた親子連れが俺達に近付いてきた。
「瀬戸、おい瀬戸」
声を掛けられ瀬戸さんが顔を上げた。親子連れの父親の方は嬉しそうに「やっぱり、瀬戸南巳だろ」と言ってからちらりと後ろの奥さんを見遣り、また瀬戸さんを見る。「俺、野地。野地雄大。文学部の。あと写真部」
「あー、うん。覚えてる」瀬戸さんは俯き、夫婦が手を繋ぐふたりの女の子を見遣った。
野地は背後の奥さんを指差し「須藤綾だよ、覚えてる?」
「う、うん」
「瀬戸君久しぶりだね」と奥さんの方も笑顔を見せた。「あのままズルズル付き合って、結婚したんだ」
「ズルズル言うなよな」野地が唇を尖らせながらも楽しげに言った。「退学してから連絡もくれなかったじゃん。元気してたか」
「まあ、うん」
「震災は?実家石巻って言ってたから心配でさ」
「大丈夫、内陸だから」こんな時でも瀬戸さんは気を遣うようにちらりと俺を見た。
「とにかく会えて良かったよ。ほんとみんな心配してたんだからさ。急に退学するし電話も繋がらないし」
「携帯、解約してたから」
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