15人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんかあったの?」奥さんの方が訊ねた。瀬戸さんが黙って首を横に振った。俺は「瀬戸さん」と声を掛けた。「そろそろ出ますか」と。
「ごめん。僕もう行くから」と瀬戸さんが踵を返す。野地が「あ、そういえばさ」と瀬戸さんの背中に声を掛けた。
「門脇さんとは会ってる?」
瀬戸さんの動きがピタリと止まった。目を少しキョロキョロさせてから「会ってない」と答えた。すぐに歩き出す。野地は「なんだよ、あんな仲良かったのに」と言ったが瀬戸さんはそれには答えなかった。
外に出た瀬戸さんは俯いたまま「すみませんでした」と小さな声で言った。
「俺は全然」と首を横に振った。それから「あと、震災の話題出ても俺のことは気にしなくていいですから」と付け加えた。それだけは主張しておきたかった。
「そうですよね、すみません」
「謝らなくていいです」
正午を過ぎて腹が減っていた。ここで何か食べても良かったが、瀬戸さんの気分が乗らないのなら仕方がない。車に戻って駐車場を出た。
最初のコメントを投稿しよう!