1・帰国

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 私と母の折り合いは非常に悪い。というより、私が一方的に避けていた。  直近の演奏を聴き異変に気付いたくらいなので、こちらの様子を見守っていたのだろう。義父の交友関係からベリカ大学病院へ繫げ、真田医師に診て貰えるよう早急に段取りをつける。  到着のアナウンスが流れ、サングラス、帽子、マスクで素顔を隠す。  ともあれ、故郷と呼ぶには良い思い出が少ない場所に帰ってきた。 ■  伊集院は屋敷をベリが丘タウンのノースエリアに構える。私とエミリーは空港で予想通りパパラッチの洗礼を受けた後、逃げ込むよう居住エリアの門を潜った。  富裕層が多く住むノースエリアでは取材禁止という暗黙のルールが存在し、それを破った記者がどうなるか想像に難くないだろう。  車から降りた私を狙うレンズの気配は感じても、シャッターが切られる様子はない。 「お帰りなさいませ、お嬢様。旦那様と奥様が首を長くしてお待ちですよ」  到着早々、両親の元へ案内される。 「エミリーは買い物でもしてきたら?」 「えぇ、そうさせて貰うわ。サウスエリアにあるショッピングモール、チェックしていたの」  エミリーは機内でベリが丘の地図をインプットし、めぼしい施設情報を把握済だ。 「ついでに滞在ホテルとツインタワーも下見してきていい?」 「どうぞ。私は話が終れば病院に行くし、せっかくだから観光してきて」  ビジネスパートナーである彼女に病院への同行を求めない。軽く手を振り見送った際、手首に激痛が走った。 「お嬢様? どうかされましたか?」  家人に気取られまいと首を振る。 「何でもないです。行きましょう」  良く晴れた日。たぶん、母の事なのでテラスに出てお茶を飲んでいそう。  重い足取りで庭へ向かった。
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