1・帰国

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 季節の花々が咲き誇る中、やはり母はティーカップを傾けていた。義父も一緒におり、もう一人男性の姿がある。 「お帰りなさい。また随分な変装ね」  私を見付け、母が少女みたいに笑う。  再婚を機に俳優を引退したものの、何か企んでいる時は芝居がかる。嫌な予感がして、サングラスを外すと魂胆を探ってみた。 「ーーあなた、真田慎太郎?」  面識はないが、その顔に見覚えがある。 「こら、目上の方を呼び捨てたらいけないよ。その様子だと真田先生を知っているみたいだな。話が早い、こちらへ来なさい」 「彼女のエスコートは俺がしましょう」  義父が手招きしても動かないでいたら、真田氏は席を立つ。  白衣でなくスーツを着た彼は雑誌で得た情報とかけ離れた印象、爽やかな大人とでもいおうか。口は悪いが腕は良い医師には映らない。  恭しく差し出す手へ応えて重ねると、また痛みが生じる。 「申し訳ありません、痛みましたか?」 「ーーえ?」 「この程度の接触で……思った以上に状態は良くないか」  痛みを顔に出したつもりはない。しかし真田氏は明確に察し、ふむと唸った。それから手を引いてのエスコートを取り止め、軽く腰に触れながら着席を促す。 「今日、真田先生にこちらへ来て頂いた理由は分かるわよね? 空港での騒ぎはニュースで観たわ。あのまま病院へ直行すれば、ご迷惑を掛けたでしょう」 「ベリカ大病院の医院長と伊集院さんはお知り合いなんですか?」  母の小言を正面から浴びせられ、義父へ話題を流した。  ちなみに私は義父を伊集院さんと呼ぶ。
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