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「呆れた、最初からそのつもりだったのね」
空を仰ぐ。雲一つもない青いキャンパスへ溜息を吹きかけた。
まぁ、冷静に考えれば分かりやすい話である。
伊集院家は私の他に子供が居ない為、かねてより結婚を急かし、何かにつけて縁談話を持ちかけてきた。
「これは真田さんも承知の上ですか?」
「えぇ、お会いできるのを楽しみにしてました」
即答。
「つまり、結婚を条件に手術をするという意味で受け取っても?」
「……」
無言。
実に素直なリアクション。
「なるほど、仮に手術が失敗しても妻に迎えればいいとお考えで?」
決め付けた言い方をしつつ、義父を睨む。
「流石、大先生。奏者生命が絶たれようとしている者に天才外科医をあてがうなんて。結末はどちらに転ぼうと美しい物語になりそう? ベストセラー間違いなしね」
「い、いや私は。私もお母さんも君を心配してーー」
「帰ります」
交渉決裂。言い訳を遮ると椅子を蹴った。さっさとエミリーに連絡をしてアメリカへ帰ろう。
「待って下さい! 桜さん。俺の話を聞いてくれませんか?」
「残念ながら私は真田さんとお話する事がありませんので。腕を治したくて日本に来ました。結婚する為じゃありません」
「腕を治したいならば俺をカモフラージュとして利用すればいいのでは?」
「カモフラージュ? そもそも先生は私を診て下さるの?」
真田氏が進行方向に立ち塞がる。
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