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ニコラ様のお役に立ちたいのです
「ニコラ様のお役に立ちたいのです」
ミアは、思いつめた顔でそう言うと、ニコラの寝台によじ登る。
ごく薄い色の金髪が、湿り気を帯びて束になり、ミアの白い柔らかい腕にまとわりついている。少し上気した頬や春の花のような淡い色の唇はまるで誘っているようだ。
ニコラは、ありとあらゆる言い訳を使い切ってしまった今宵、ミアが寝台に上がるのを止められなかった。
「待て、ミア」
ミアは、妖精のような、少女のような――慰みに抱くことに罪悪感を覚える外見をしている。
「どうしてニコラ様はそう頑ななのですか? わたしに仕事をさせてくださいと申し上げておりますのに」
今日のミアは、なかなか手強そうだ。
ニコラは頭を抱えたい気持ちになった。
「今日は……そ、そうだ、騎士団で皮膚病が流行っているのだ。私も罹患していないとも限らない。ミアに感染させるわけにはいかないから……」
「ニコラ様、その言い訳は、先月も使っておいででしたよ」
「いや、再発した団員がいるのだ!」
ミアは目を細めてニコラを見る。
「どなたですか?」
「は?」
「どなたが再発なさったのですか? ニコラ様の家の者として、お見舞いを手配いたしませんと」
ミアはニコラの家に来て半年で、家の中のことは一通り出来るようになっていた。
その範囲は、簡単な手紙の返信や、贈答品の手配にまで及んでいる。
暇を持て余したニコラの母が、ミアに身の回りのことを教えているのを、ニコラはあまりよく把握していない。
「ええと、そうだな……」
「イーサン様ですか?」
「い、いや、イーサンではない」
「では、ニール様ですか?」
「……」
以前病気だと偽った団員の名前をミアが全て記憶していたので、ニコラは内心慌てた。この嘘も最初からバレているようだ。
「他の方に仮病を使わせてまで、わたしを拒む理由は何ですか?」
ミアはうっすらと涙まで浮かべて憤る。
「もう半年……半年も経っているのですよ! いい加減、ちゃんと仕事をさせてください!」
ニコラにはミアの涙の訳が分かっている。ミアは、仕事がしたいのだ。
ほかの望みだったら何でもかなえてやりたいが、こればかりは受け入れるわけにはいかない。
「お前を拒んでいるわけではないんだ、ミア……」
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