あ、貯蓄ですか?

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 欠乏していることに慣れきっているミアには、連続で来る幸福は、大きな不幸の前触れであるようにしか感じられない。  ミアは今日食べられたパンを明日また食べれる保証がないのを知っている。だから、若さが続く限り花街で世話になるつもりでいる。できることなら裏方としてその後も世話になりたい。  ニコラと過ごす年季が明けたら、花街でもう一度契約を結ぶつもりだ。しかし、今のままでは何の経験も技術も残らない。  このままの技術では、次の年季分の契約をしてもらえるか疑わしいと悲観的になっていたところだ。   (なんとしてもニコラ様にその気になってもらわなければ……) 「ニコラ様に不満はございません。仕事をさせて頂けないので困っております。もしかして、タリムさんに操立てしていらっしゃるのですか?」 「操など、そんな……私はいつかお仕えする姫の為に……」  ニコラはまた妄想の中の姫のことを語り出す。  この国には七人の王位継承権を持つ王子がいるが、ただの一人も姫はいない。  タリムは婚外子で王家の姓すらもっていない。「いつかお仕えする姫」などいないのだ。 「姫なんてお城にはいないではないですか」 「城にはいないが、私が仕えるべき姫はいるはずなのだ……」 「だから、タリムさんのことですか? ニコラ様は振られたのではなかったのですか?」  ミアには、ニコラの愛がタリムに届いているようには見えなかった。それどころか、ひどく嫌われているような、あからさまに避けられてい様子ばかり見受けられる。  ミアと顔を合わせるといつも、ニコラは変態だから気をつけろと忠告するくらいにはニコラを毛嫌いしている。 「振られてなどいない! タリム嬢の兄上から、愛を伝えてもよいと許可も頂いている。私はロイ・アデルアに姫を渡すわけにはいかないのだ」 「ええ?! あれで、振られてないって本気で思っているんですか?! ニコラ様、ロイさんに勝ってタリムさんを得るつもりですか? 意地になってるんじゃありませんか?」  ミアは、一度、酔って帰ってきたニコラが、「汗水たらして汚い王子に傅いている間に、姫にべったり侍っていたロイが憎い」と愚痴っているのを聞いてしまっている。 (まぁ、ロイさんはロイさんで、タリムさんにニコラ様を近づけたくないみたいなのだけれど……) 「ニコラ様、そういう気持ちを抱き止めるためにミアがいるのですよ」
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