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それでも自分の剣で主を守れない方が辛いと、身も心も削って訓練に参加し続けた。
撥ねあがった剣がミアに向かって落ちてくる。
弾いたり避けたりするのでは間に合わないと、ミアに覆いかぶさって、全ての筋肉を強張らせる。次の瞬間どんと背中につめたい衝撃が来て、息が詰まり目の前が真っ白になった。
気が付けばミアの手首をつかみ、後頭部を手で保護していて、頭を打たせた様子はない。
「は……間に合った……か」
遅れて背が脈打つのを感じるが、痛いのか痛くないのかすらわからない。
わけがわらからないままにミアの無事を確かめていると、ひたりと肩を伝って顔に何かが垂れてくる。
粘度のある液体がぽたりぽたりと頬を伝うのをみてミアがおびえた。
(背中がひどく熱い。じりじりと焼けるようだ)
「ニコラ様、離して! ニコラ様、手を離してください、すぐに手当てを……」
ニコラは飛んできた剣を背で受けていた。王子を侮っていたので防具もつけていない。
冷や汗が出て、指先が冷たい。かなり出血が多いようで耳も遠い。
(私にも、ミアを守るだけの力はあったということか……)
達成感に満たされて、ニコラはこのままいろいろなことを投げ出すのもいいかもしれないと思い始めていた。
「ミア、いいんだ。私は、もういっそ、このまま死ねたら本望なのだ……」
「馬鹿なこと言ってないで、誰か! 誰か、早く手当を! お医者様を呼んでください! 誰かぁ!!」
ニコラはミアを守ったままの姿勢から少しも動かずにいた。盾になることを決めた時の訓練が体に染みついている。
「ニコラ様、手を放して! どうして離してくれないんですか、手当てをさせて下さい、お願い……」
「いいんだ。主の盾となるのが騎士だ、ミア……これで私の愛を証明できただろうか……」
ミアが怒っている。
ニコラはぼんやりとミアに惹かれる理由を考えていた。きっと最初の出会いから決まっていた。ニコラの心の欠けていた満たされない部分に誂えたようにぴったりと嵌った。幸せにしたい、命を捧げてもいいと思えるのは、想像上の人物ではなくて、たった一人で強く生きていこうとする娼婦の娘だった。
「姫……」
「なにを言っているの! ニコラ、今すぐ手を離しなさい! 死ぬことは許しません!」
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