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「このままあなたの盾となることをお許しください。それが私の幸せなのですから」
「馬鹿ぁぁぁっ!!!」
(ミアの悲鳴が遠いな……)
ニコラはゆっくりと目を閉じた。
相当の失血で意識を失ってもニコラはなおミアを離さなかった。医療班がやって来て、気を失ったニコラの手をミアから離すまでに数人がかりだった。
*
ミアは城の救護室に数日置かれることになったニコラに付きっ切りで世話をしている。
急な貧血で意識を失ったニコラが目を覚ました時に、今度は気が抜けたミアが倒れこんで、そのまま救護室に留め置かれた。
剣の先が刺さったわけではなく、広い刃の部分が背に当たったので、勢いで皮膚がはじけたが傷は深くなかったのが幸いした。縫い合わせた傷は長いけれど、重症というほどではない。
貧血が重いので、増血剤を飲んで気分が悪いと言っている以外はベッドで寝て過ごすだけだ。
「……生き残ってしまったな」
「なんてことおっしゃるんですか。娼婦の為に死ぬなんて、正気じゃありません!」
ミアは軽口が叩けるようになったニコラを睨みつける。
「そういう愚かしさを愛とか恋だとか称すると弁えているが、ミアはまだこれが娼婦熱だと言うのか?」
ベッドで寝ている以外にやることがないのか、ニコラは眠っている他は、熱心にミアを口説いてくる。
血を失って青白くなったニコラを見ていたミアは、こんな恐ろしいことがあるのかと、ニコラが目を覚ますまでずっと震えていた。
「責任を感じるというのなら、私をあなたの騎士として生かしてほしい。ミアという主人がいなければ、私の生は輝かない」
すらすらと歯の浮くようなセリフが出てくるニコラにため息をつくが、死にそうな顔を見ているよりはずっといい。
「ニコラ様にはこれからどんな立場の姫様でも望めば得られるはずです。異国の王女はひとりではありません。どこへでも探しに行けばいいではありませんか」
そろそろ定型文になってきた断りの文言を述べると、ニコラは少し黙って次の言葉を選んでいるようだった。
「……違うんだ。私は姫に仕えたくて生きてきたと思っていたけれど、そうじゃなかった。全てを捧げられるような相手に出会いたかっただけなんだ」
「それがわたしだなんてあんまりです。それに、わたしニコラ様の命なんかいりません」
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