素人も素人、ド下手だ。

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 ミアはニコラが目を覚ますまでの時間を自分の命が脅かされる以上の恐怖で過ごした。  ニコラの命が自分の命よりもずっと重くなっていたことにミアは気が付いてしまった。 「そうか? ミアは死ぬのが怖いだろ? 私がそれをすべて退けてあげようと言っている」 「死ぬのは……怖いです。でも、ニコラ様に死なれるのはもっと怖い」  ニコラの命が社会的に価値のある物で、それを損なって責任を取らされる恐怖とは別に、ただニコラを失ったら生きていけないと思う気持ちがあるのを知ってしまった。 「怖がらせて悪かった。幸か不幸か、私は生きている。そういえば、王子の剣ごときでどうにかなるほど柔じゃなかった。ミア、心配ならここへおいで、心音を聞けば納得するだろう?」  まだ背中を下にして眠れないので、ニコラの隣には寝やすいように抱き枕が置いてある。それをずらしてニコラがミアを招く。  ミアは言われるままにニコラの懐へ潜り込んで胸に耳をつけた。  力強く脈打つ心音に、苦しいくらいに安堵する。 「結婚してくれないか。私はミアの為なら命も惜しくない。それは証明できたはずだ」 「そんなの……絶対にお断りです」 「そういわれても、私は諦めないが」  救護室に担ぎ込まれてからニコラは少し馬鹿になったように思える。  あんなことがあったのに王子たちの話をしないし、ミアに求婚してばかりいる。  今まで、あんなにミアに世話されることを嫌がっていたのに、ミアに食事を口まで運ばれるのも受け入れている。  様子がおかしいので、ミアも刺激が強そうな出来事はニコラに伝えていない。  王子たちの世話をする適任の者がおらず、ギルドから職員が派遣されたことはまだニコラに話していない。  まさか近衛の代わりをギルドに依頼するとは思っていなかったので皆驚いたが、オレンジ色の髪の男がけだるそうに王子の居住区の廊下を歩いて行くのを見て、最も驚いたのはミアだったに違いない。  見間違えようがない。髪を染めたロイ・アデルアだった。  
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